公園に椅子を作ることになりました。壊れると大怪我をしますので、お相撲さんが座ることを想定して、また、余裕を持って頑丈な椅子を作りました。ある日、ライオンがやってきて椅子に座りました。想定よりも重かったのですが、余裕があったので壊れませんでした。別の日、カバがやってきて椅子に座りましたが、まだ大丈夫でした。ところが、ある時、象が座ったところ、さすがに椅子の足が折れて、象は大怪我をしてしまいました。
椅子は、本来、お相撲さんの体重で設計されているのですが、実際には、座る人の体重が重くなってもカバまでは耐えられました。このように、「設計で見込んでいる荷重よりも大きな荷重が与えられたときに、何処まで耐えられるのかを調べ、弱いところは何処なのかを調べることが、ストレステストです。
この椅子の場合、カバまでは耐えられるということと、弱点は椅子の足であることがわかります。
では、この情報はどう使うのでしょうか? カバまで耐えられるから安心だというのも、情報の一つの使い方かもしれません。めったにカバが公園に来ることはありません。そのカバでも大丈夫なのだから普通の人が座っても全く問題ないねということは言えると思います。でも、象で駄目なら危ないじゃないか、という人もいるかもしれません。
さて、弱点が「足」とはっきりしていますので、「足」を補強することにしました。そうすると、象が座っても椅子は壊れなくなりました。つまり、今まではカバまで耐えられたのが、改善によって、象まで耐えられるようになりました。より大きな荷重でも安全になったのです。
ストレステストを実施するのは、この例に示すように、
今、国内や欧州の原子力発電所に対して行われているストレステストは、椅子の替わりに原子力発電所を対象とし、体重の替わりに、地震の強さや津波の大きさを考えながら、どこまで大きな地震や津波に原子力発電所が耐えられるのかをシミュレーションなどによって評価しています。お相撲さんの体重に相当するのが、基準地震動や基準津波高さです。
さて、公園の椅子は象が座っても壊れなくなりました。ところが、マンモスが来たら壊れるかもしれません。マンモスが公園に来る確率は、ゼロではないかもしれないのです。
ではどうすればよいのでしょうか?
マンモスが椅子に座ったとしても、怪我をしなければ良いので、怪我をしないように、椅子の下に毛布を敷くことにしました。もし、椅子が壊れてしまっても、怪我しなければよいのです。ただ、毛布を敷いてあっても、座り方がおかしいと、怪我をしてしまうかもしれません。怪我をした場合でも、近くにお医者さんと病院があれば、怪我は治せることになります。
このように、想定を超える場合がありうることを考えて、あらかじめ検討をするとともに、対策をとっておくことをアクシデントマネジメント(過酷事故対策)と呼びます。椅子の下に毛布を敷いたり、怪我をした場合に備えてお医者さんを連れてきておくことなどです。お医者さんにずっと居ていただくのは大変なので、万一の時はすぐ飛んできてね、と頼んでおくことでも良いかも知れません。このように、椅子を壊れないようにすることだけではなく、万一椅子が壊れても怪我をしないようにすることが、安全を確保するために重要な考え方なのです。
福島第一原子力発電所では、象が座ってしまって椅子の足が折れ、また、毛布も薄かったので、象が大怪我をしてしまいました。さらに、お医者さんも素人だったので、怪我がひどくなってしまいました。今は、世界中からお医者さんが駆けつけて、なんとか象の怪我を治しつつ、怪我がさらにひどくならないようにしている状態です。
他の原子力発電所では、象が座っても壊れないように補強をするとともに、万一のための毛布を厚くしたり、お医者さんについても補強を始めています。
なお、欧州で実施されている原子力発電所を対象としたストレステストでは、もし椅子が壊れてしまっても怪我をさせないための対策についての評価をすることが求められています。毛布の厚みを厚くしたり、中の綿をすぐに交換できるようにしたり、様々な検討がなされています。これらの評価で、どこに弱点があるかを見つけて改善につなげています。
日本の原子力発電所に対するストレステストは、前半部分の椅子が壊れるところまでを第一段階とし、壊れてしまった後の対応については第二段階でみることになっています。象が座っても壊れないことを確認するまでが第一段階、マンモスが座って壊れても大怪我をしなくて済むかどうかをみるのが第二段階です。
公園の椅子には、通常、大人や子供が座るので、全く問題ありません。たまにお相撲さんが座るのですが、やはり問題ありません。日本の法律では、お相撲さんが座っても壊れないことを確認すれば良いことになっていました。でも、実際には誰が座るのかがよくわからなかったので、かなり余裕を持って椅子を作ってありました。また、万一のことを考えて、毛布も敷いてありました。ライオンや象が座る確率は非常に低いと思われていたのですが、実際に象が座ることが起きてしまいました。よく調べると、昔も象が公園に来ていた痕跡が残っていたのですが、それは、場所が離れていたりしたため、椅子の置いてあるところには象は来ないだろうと思い込んでいたのです。もはや、何処にでも象が来る可能性が否定できなくなりました。そこで、象が座っても大丈夫かどうかをストレステストを使って確認したのです。
象が大怪我をした後、公園中の椅子は、補強をしたり、毛布を厚くしたりして、二度と大怪我をしないように対策がとられました。この対策が十分かどうかを調べるためにも、ストレステストが利用されました。
原子力発電所では、非常に危険な放射性物質を内包しています。二度と福島第一原子力発電所のような事故を起こしてはなりません。安全を確保する唯一の解は、常に安全を目指して改善を続けることです。また安全とは関係の深い対応を優先的に充実して実施することも重要です。
ストレステストを実施することは、この2つの意味で重要です。継続的に改善を続けるための手法として有効であり、また、安全と関係の深い事項を見つけ出すための手法としても有効です。つまり、ストレステストは、今やっているだけでは不十分で、常にやり続けることが重要です。ただし、毎日やっていると同じことの繰り返しになってしまいますので、例えば5年とか10年に1回と間隔を決めて、ストレステストをやり続けることが重要なのです。
2012年6月20日に新しい原子力規制委員会を作る法律ができました。この法律の附則で、原子炉等規制法が改定され、原子力発電所に対して、定期的に安全性向上を評価する仕組みが導入されています。このような仕組みの中で、より安全性を向上するための、継続的な取り組みが行われていくことになると期待してます。
| 弱いところは何処なのかを調べること |
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