原子力なんでもQ&A(13) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2013年9月号48ページより転載

新規制基準とは何ですか


Q:福島第一事故の教訓

福島第一原子力発電所事故の直接的要因は、津波によって電源や電源盤が故障して冷却ができなくなってしまったことです。原子炉が止まった後に発熱し続けている「崩壊熱」が冷やせなくなったため、炉心が溶け、原子炉容器、格納容器を壊し、放射性物質が環境に放出されてしまいました。

一方間接的な要因としては、津波に対する設計の認識が間違っていたこと、想定外事象に対する準備が不十分であったこと、リスクを考えない規制を行っていたためリスクの大きな津波を見落としていたことなど、多数の要因が考えられます。

これらの様々な教訓を反映して、二度と事故を起こさないようにすることが新基準の最終目的です。しかし、皆さんご存じのように、リスクはゼロにはできません。このため、可能な限り、事故を起こさないように、また、事故が起こっても環境に影響を与えないようにするために、様々な要求がなされています。つまり、事故が起こるリスクをできるだけ小さくすることが、新規制基準の目標です。

このことから、新規制基準では、まず、直接的要因となった津波の考え方の見直しを行うとともに、原子炉をどのような状況でも冷却できることを目的として、様々なバックアップ装置の充実を要求しています。とにかくどのような場合でも、様々な手段を使って原子炉を冷やすことを要求しています。この直接的要因に対する対策は、全てのプラントでそれなりに充実しています。事故から半年後には、ほとんどのプラントで、数多くのバックアップ電源車が整備されていました。今でも、バックアップ電源車に加えて、新しく空冷発電機を山の上に設けたプラントなど、電気に対するバックアップと冷却に対するバックアップは充実しています。

また、津波用の防潮堤を作ったプラントもあれば、建物のドアを、分厚い水密扉に入れ替えたプラントもあります。新規制基準を待つことなく、直接的要因に対する対策は十分に打たれているといっても良いでしょう。これは、昨年、民主党政権下で実施された、いわゆるストレステストでも、しっかり確認されています。

Q:ゼロリスクではなく、可能な限りリスクを下げること

さて、新規制基準では、直接的要因に対する対策だけではなく、間接的要因に対する対策も要求しています。これは、事故が起こることを前提として、その事故の影響を緩和する方策を充実させるという海外では当たり前の考え方が、日本国内ではあまり真剣に考えられていなかったという反省に則っています。考え方そのものは、間違っていません。しかし、残念ながら、適用方法が間違っています。

基本的には、事故が起きた後の対策を様々に考えていくことになります。規制庁は、思いつく限りのいろいろなシナリオを考えて、いろいろなハードウエア(装置)をつける事を要求しています。しかし、思い付きだけで規制をしています。人間の想像力というものはどうしても限界があります。逆にいうと、規制庁のお役人さんの思いつかないようなものは、ごっそり抜けおちてしまうのです。恐ろしいことです。

では、本来はどうするべきなのでしょうか? 福島第一事故では、想定外というキーワードが踊りました。想定外があることを想定すること、それが事故から学ぶ重要な教訓です。お役人さんが一生懸命考えたって、次に起こる事故は、それの想定外になります。想定外に対応することを前提に、対策を考えることが必須なのです。

アメリカでは、FLEXという対策を考えています。これは、仮設装置や過酷事故の専門家をプラントに準備するだけではなく、アメリカ東西2カ所の拠点に準備しておいて、想定外を含むいろいろな事象に、専門家と仮設装置を中心とした対応を進めるという優れた対策です。福島第一事故で見たように、事故発生から24時間が鍵です。逆にいうと、この24時間の間に適切な対策が取れるように、ソフトウエア(知識や経験)とハードウエア(仮設装置)を、あらかじめ常に準備しておくということになります。想定外があることを想定した、柔軟性のある対策を考えています。事故を起こした日本から、このような柔軟な考え方を提案できれば良いのですが、残念ながら、日本では、事故前と同じ考え方を踏襲しているのが気になります。

新規制基準で、最も危険なことが、思い付きシナリオに対する対策をハードウエア中心に要求していることです。全ての対策は、目的とするリスクを低減することができますが、必ず、別の場所にリスクを導入するのです。つまり、設置した装置が、別の事故を引き起こす可能性があるのです。既設プラントに思い付き対策のために装置をつけると、大きなリスクを導入する可能性が高くなってしまいます。本来は、総合的なリスクを低減することを目的として、対策を検討しなくてはならないのです。ところが、新規制基準は、目の前に見える思い付きの対策を要求しています。結果的に総合的なリスクが高くなっても、思い付き対策を実施する事が必要になってしまいました。新規制基準で事故が起こらないように、事業者には是非、リスクを低減する努力をお願いしたいと思います。

Q:リスクを中心に改善が可能かどうか

さて、福島第一の事故の最も重要な間接的要因は、事業者や規制当局の継続的改善を促す仕組みが、全くできていなかったという事実です。リスクを中心に発電所の活動を評価し、リスクを大きく下げる対策に力を注ぐ必要があります。リスクをほとんど下げない対策にばかり力を注ぐと、どこかに大きな穴が空いてしまいます。

事故前は、原子力安全・保安院は発電所に出かけて、書類チェックばかりをしていました。保安規定を遵守していることは重要なことですが、そのために、ハンコの有無を一生懸命チェックする作業に注力していました。本当は、どのようなリスク低減策を事業者が考え、実行し続けているかを見ることが重要なのです。現状の状況に満足することなく、わずかなリスクも見逃さずに、常に改善を進めること。また、リスク低減のための様々な工夫や改善を進めていることを監視することが規制の重要な役割です。

アメリカばかりを引き合いに出して恐縮ですが、アメリカの現地検査官は、事業者の活動データベースに毎日アクセスして、リスクを物差しとして、活動を監査し続けています。おかしいと思えば、フリーアクセスで自由に出入りをして、活動について指摘を行っています。リスクを下げる活動、もしくは、許容できるわずかなリスクをとることによって結果的に大きくリスクを下げる活動を推奨しています。これらの活動を監査し、事業者が継続的にリスクを下げる活動を進めることを促し続けています。

日本では残念ながら、書類が正しくそろっていれば安全であるという、間違った考え方で事業者の活動を規制していました。事業者も改善するよりは、従来通り、書類を整備する事に注力していました。わずかなリスクの増大も許されず、改善よりは現状維持を優先していたのです。新規制では、事業者に継続的改善を義務付けています。ところが、その判断基準がまだ示されていません。総合的なリスクを判断基準とし、改善が進むことを促すことが重要です。この時、わずかなリスクの増大も許さない硬直した規制では、結果的に改善を阻害します。規制当局がリスクを定量的にとらえ、総合的なリスク低減のために許容できるリスク増大を認めることが、発電所の安全を担保する唯一の道です。

今は、保安院時代と同様の書類チェックを一生懸命やっています。新基準でもリスクをほとんど考慮していません。早くリスクを考えた規制に変革していくことが新基準に求められています。できたばかりの基準ですが、継続的改善は規制にこそ重要です。リスクを考慮した、より改善された新基準に基づき、事業者の活動を監査する仕組みに改善していくことが望まれます。

事故が起こるリスクを小さくすることが目標

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