原子力なんでもQ&A(14) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2013年10月号30ページより転載

世界の原子力発電所は どうなっているの


Q:福島第一原子力発電所事故の影響

 福島第一原子力発電所事故は、世界中を震撼させました。大津波という大規模な自然災害が引き金になりましたが、原子力発電所のもっている潜在的なリスクが顕在化し、世界中で原子力発電所の安全性に対する再点検が行われました。

 ヨーロッパではストレステストをいち早く導入することを決め、洪水や地震といった自然災害などに対して、それぞれの発電所の弱点を評価しています。ヨーロッパは、各国が地続きで、かつ近いので、事故が起きるとすぐに国を超えた対応が必要になります。チェルノブイリ事故の時も、ヨーロッパ全体が大きな影響を受けました。福島の事故は環境や社会に大規模な影響を与えましたので、ヨーロッパにおける同様のリスクを可能な限り減らすことが必要と判断されたのです。

 ストレステストでは、どこまで大きな地震に耐えられるのかといった限界値も求めますが、本当の目的は限界を決めることではありません。飛行機や原子力発電所といった人工物は、通常の設計範囲の中については詳細な評価を実施していますが、その設計範囲を超えた場合については、あまり検討がなされてないものです。福島の事故は、まさに、この設計を超えた範囲の検討が不十分であったことが事故を大きくした一つの要因です。

 そこで、設計を超えた範囲の検討を促し、かつ、その中から発電所特有の事象や、発電所の弱点を探し出すことを目的としています。発電所のハードウエアは、世界のどこでも大体共通です。加圧水型原子炉(PWR)や沸騰水型原子炉(BWR)といった型式やバージョンの違いはありますが、同じような設計思想で、同じような装置がついています。

 しかし、発電所を襲う地震の規模や、発電所ができてから今までの保守管理の状況、発電所を運転している人材などは、発電所毎に全部異なります。このような発電所ごとに異なる要因も含めた、つまりソフトウエアも含めた総合的な検討を実施することによって、発電所特有の弱点や事象を、自ら考えることが重要なのです。

 ストレステストのやり方の方針は示されましたが、具体的な方法は事業者が自分で考えました。この自分で考えるということが非常に大事です。発電所の特徴を一番よく知っているのは、運転・保守を行っている事業者です。現場第一で、現場の状況をベースに、弱点を自ら見つけていくことができるのは、事業者以外にはいません。

 その結果を評価し、総合的なリスク低減が十分なされているか、さらには、よりよい改善点は無いかを考えるのが規制機関です。ヨーロッパではクロスチェックやピアレビューといった形で、ヨーロッパ全体の安全向上を図ることが進められてきています。重要なことは、原子力発電所の安全をさらに向上することが目的ですので、発電所を運転しながら、ストレステストを実施していることです。

 一方、アメリカでは、原子力規制委員会(NRC)が中心になって、福島のような事故を起こさないためにはどうすればよいのかを検討し、事故から4か月後には、改善のための方向性を3種類の時間スケールとともに示しました。

 すぐにでも対応すべきもの、中・長期的に対応すべきものです。これらの提案に対し、事業者・産業界連合である、原子力エネルギー協会(NEI)は独自に安全向上策を検討し、移動式の機材と人員で緊急時対応を行うことなどを含むFLEXと呼ばれる対策を提案しました。この方法をNRCが認め、アメリカの発電所の安全はより高まりました。ヨーロッパと同様に、これらの検討は、発電所を運転しながら進められ決定されています。

 また、中国でも同様に、運転中の発電所の安全向上について検討が進められました。新規プラントの建設については、事故直後は凍結されましたが、十分な検討ののち約1年後には再開が認められ、現在は数多くの新しいプラントの設計や建設が進められてきています。また、福島の事故のようなシビアアクシデントを防ぐための必要な研究が、議論を踏まえてリストアップされ、それらの研究に重点的に予算が投入されています。

 重要なことは、世界はスピード感を持って対策を行い、今現在では、ほとんどの対策が実施済もしくは推進中であることです。1年以内に大体の方向性が示され、2年間で安全向上の方向性を確定し、より安全な原子力発電所が運営されています。また、これらの対策や検討は、発電所を運転しながら実施したことも重要です。

Q:日本と世界の違いは?

 さて、ご存じのように、日本では、地震から2年半が経って、ようやく新基準が作られ、審査が始まりました。世界に比べて、極端に遅いです。ガラパゴス化しているだけならまだしも、あまりに遅すぎて自分で自分の首を絞めています。先送りを美徳とする日本ならではの文化かもしれません。また、新基準も、素人の規制庁が作ったため、逆にリスクを高めるものになっています。世界が一生懸命努力して安全を担保しようとしているのに対し、日本はいい加減な基準で、世界と逆の方向に進んでいます。

 発電所を止めて、会議室で議論をしているというのも日本だけです。世界では発電所を運転しながら、現場中心の検討を進めました。重要なのは会議室ではなく、現場なのです。会議室なので、時間は無限にかかります。あまりに大きなインパクトであったため、日本はまだ、茫然自失になっている状況が続いているようです。

 ただし、覚えていらっしゃる方もいると思いますが、日本においても、事故直後は1年以上にわたり、他の原子力発電所の運転を継続していたのです。最後に定期検査が来て止まったのは、事故の翌年の5月でした。事故後も安全に1年以上運転できているのですから、今、止める理由がありません。実は、法律上は、運転しようと思えば運転できるのです。しかしながら、空気で止めているのです。日本は法治国家ではないことを世界に示しています。空気が国の行く末を決める国、空治国家と言っても良いかもしれません。

 空気を作るのはマスコミですが、時の政治家も空気を利用します。国民のことはどうでもよく、自分たちの選挙と自分たちの権益を守ることに一生懸命だった政権であったのが残念でした。

Q:日本は世界に追い付けるのでしょうか?

 おそらく日本は世界に置いて行かれます。  今、規制庁が実施している安全審査は何のために行っているかご存じでしょうか? 設計で考えられている範囲と、それを超えた対策については、世界標準から考えれば十分に満足しています。そうでなければ、事故後1年も運転が継続できません。  今の審査は、確率がものすごく小さい、つまり、10万年や100万年に1回起きるかどうかの事象に対してちゃんと対策が取られているかを審議しています。それも、規制庁が思いついた事象に対してだけです。  アメリカやヨーロッパのように、現場中心で総合的なリスクを考えるのではなく、審査しやすい思い付きのリスクに対する議論を会議室で実施しているのです。このため、残念ながら、日本の発電所の、総合的なリスクは増えています。事故直後にとられた対策で、折角低減されたリスクを、新規制の審査によって増大させるというあり得ない作業を実施しています。  規制のための人員や予算は有限なので、意味の少ない、小さなリスクに対する規制ばかりをやっていると、大きなリスクを見落とします。福島事故の重要な間接要因は、規制が意味の無い小さなリスクにこだわり、津波という大きなリスクを見落としたことなのです。     ところが、今の規制は全く反省せずに、同じことをやっています。名前を変えてもやっていることは全く一緒です。

世界はスピード感を持って対策を実施

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