福島第一原子力発電所では、大津波によって燃料の冷却ができなくなり、燃料が溶けてしまいました。燃料は運転停止後も少しづつ発熱をし続けています。この熱は、核分裂ではなく、核分裂によってできた物質が崩壊する時に出す熱です。時間とともに減少していきますが、なかなかゼロにはなりません。
今も燃料に水をかけて冷やし続けています。この水に燃料から放射性物質が少しずつ溶けだしてきます。このため、非常に放射線量の高い水が大量に出てきます。さらに、地下水が原子炉建屋に流れ込んでいるため、毎日大量の汚染水ができてしまいます。この汚染水は処理をしないとそのまま海に流れ込む可能性が高いため、毎日処理をし続けています。
今は、原子炉建屋とタービン建屋の水位を低く保つことで、汚染水ができるだけ地下水に流れ込まないようにしています。この水位を維持するために、大量の汚染水をくみ上げ、セシウムを除去したのち、脱塩処理をします。この状態では、まだストロンチウムなどの放射性物質が大量に含まれた状態です。この水は捨てられませんので、地上のタンクに貯めつづけています。一日当たり400トン、1年では14万トンの汚染水が増え続けています。
福島第一で管理されている水には様々な汚染レベルのものがあります。(1)原子炉建屋やタービン建屋にある比較的汚染レベルの高い汚染水。同様に、(2)トレンチと呼ばれる海のそばのトンネルにある汚染水もレベルが高いです。これらの汚染水を処理した、(3)地上のタンクに溜まっている大量の汚染水は、セシウムは除去されていますが、比較的汚染レベルは高い方です。さらに、今後はこの水(3)をALPSという装置でストロンチウムなどを除去して(4)汚染レベルを下げた汚染水が今後できて来ます。残念ながらまだALPSは稼働していません。また、原子炉建屋に入る地下水の量を減らすため、汚れる前の地下水をくみ上げた(5)汚れていない水もあります。
7月に海のそばで汚染水が漏れているのではないかとして話題になった汚染水は(2)の汚染水です。覚えている方も多いと思いますが、事故直後に港の壁から、海にじゃじゃ漏れになっていた汚染水です。なんとかじゃじゃ漏れは止めることができましたが、どうやらその後もじわじわと地下水に乗って海に流れ出ていたようです。もちろんその量は、じゃじゃ漏れの何万分の一という非常に少ない量です。
地下水をサンプルしたデータが東電のホームページにありますが、この汚染水が継続的に海に流れていたと推定できます。さらに、水ガラスで地下水のダムを作ったので、この流れが見えるようになりました。しかし、量は少ないですし、海水のモニタリング結果からは、漏れているとしても港から外には出ていないと考えられますので、ほとんど環境に与えるリスクはありません。つまり、汚染が広く拡散して漁業に影響を与えることはありません。風評により悪い印象がありますが、風評被害を抑える事が必要です。
なお、制御されていない(2)の汚染水が漏れているのは良くないことですので、現在は(2)の汚染水をくみ上げて処理する作業が進んでいます。これが終われば、(2)については、リスクはかなり小さくなります。
一方、8月にタンクから300トンの水漏れが確認された汚染水は(3)になります。この汚染水は、ストロンチウムなどが混じっているためにまだ比較的リスクは高いです。今回漏れたのは300トンでしたが、厄介なことに同じような水が1000倍の、30万トン以上溜まっています。万一、タンクが次々に壊れて、30万トンの水が漏れると、現場の放射線量が一気に高くなって、作業ができなくなってしまいます。また、これらの水は海に流れ込むでしょうから、大変困ったことになります。タンクはまだ数年は持つと考えられていましたので、その数年の間に処理をしようと考えていました。しかし、それも怪しくなってきていますので、可能な限り早急に対策を取らねばなりません。
前述のように、(3)の汚染水をALPSと呼ばれる処理装置に通すことで、ストロンチウムなどの放射性物質をとることができます。そうすれば、比較的リスクの低い(4)の汚染水だけになります。この汚染水(4)には、どうしても除去ができないトリチウムだけが混じっています。トリチウムは水素の同位体で、陽子1個と中性子2個で原子核が構成されます。性質は水素とほぼ同じなので、普通の水として存在します。水から水を除去するのは大変困難で、現実的ではありません。
今、海に捨てようと検討が進んでいるのは、(4)のトリチウムだけが混ざった比較的リスクの低い汚染水と(5)の汚染されていない地下水の2種類です。このうち、(5)の汚染されていない地下水は、汚染されていない川の水と一緒ですから、環境を汚染することはありません。しかし、福島第一から水を捨てるというと、風評被害が起こることが懸念されています。現実に、福島第一の周りを流れる川は、海に流れ込んでいます。風評被害は、正しい情報を正しく伝え続けることによってある程度防ぐことができます。
過去には狂牛病騒動の時、国は全頭検査をして、国内に流通する牛肉の安全性を宣伝しました。一時は牛肉が売れなくなりましたが、すぐに復帰して、今ではアメリカ産の牛肉も皆心配せずに食べています。同じように、汚染されていない地下水(5)を捨てる時に、国が責任をもってモニタリング(検査)をして、捨てる水の安全性を確認することによって、福島第一の汚染水問題は少し解決します。
さて、汚染されていない地下水(5)は、良いとしても(4)のトリチウムだけが混ざった水はどうでしょうか? トリチウムは地球上に自然に存在する物質です。宇宙から飛び込んでくる宇宙線によって、地球の上空では毎日大量のトリチウムが作られています。これらのトリチウムの一部は地上に降ってきて、我々の周りに普通に存在しています。
海の水にもトリチウムは一定程度含まれています。トリチウムは水ですから、もし飲んでしまったとしても、どこかに溜まることもなく、すぐに排出されてしまいます。このため、人や動物、環境に対する影響は低い物質です。しかし、当然ながら大量に摂取することは望ましいことではありません。
日本を含め世界では、このトリチウムが混ざった水は、薄めて海に捨てることが行われてきています。海の水と同程度まで薄めれば、魚や人に与えるリスクはほとんどないと考えられます。そこで、福島第一にいっぱい溜まっている(3)の汚染水から、危険な物質を除去し、どうしても取れないトリチウムだけが混ざった水(4)については、薄めて海に捨てることが検討されています。漏れる危険性のあるタンクに大量の汚染水(4)を置いておくリスクよりも、薄めて捨てる方がリスクは格段に小さいのです。しかし、やはり風評被害が気になります。でも、風評被害を恐れて、汚染水(4)が漏れてしまうと、風評ではない実害になってしまいます。
ここでも地下水(5)と同様に、十分に低い濃度であることを国が検査をして、毎日発表するなど、風評被害をなくすための努力が必要になると思います。今までも風評被害を恐れて、先送りしてきたことがいろいろあります。先送りで風評被害は避けられるかもしれませんが、リスクが高まり、実被害につながる可能性がどんどん高くなってしまいます。
福島第一はまだ事故が継続しています。時間がたてばたつほど、リスクがどんどん大きくなっていきます。地元復興のためにも、水放出という小さなリスクを取り、大漏洩という大きなリスクを避けることが必須であると考えています。もちろん、責任をもって風評被害対策を行うことも必須です。
| 風評被害をなくすための努力が必要 |
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