原子力なんでもQ&A(16) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2013年12月号50ページより転載


Q:原子力発電所の安全とは

 原子力発電は、ウランやプルトニウムの核分裂によって発生する膨大な熱エネルギーを電気エネルギーに変換して活用しています。一旦、核分裂をすると、様々な物質が作り出され、これらは放射線と熱を出します。この放射線を放出する物質は、核分裂で生まれますので核分裂生成物(Fission Products/FP)と呼ばれます。核分裂を利用する限り、必ず核分裂生成物(放射性物質)が生まれますので、安全な原子炉であるためには、この放射性物質を環境に放出せず、人間が管理できる状態に置いておくことが必須となります。

 この核分裂生成物を、どんな状況においても、閉じ込めることさえできれば、安全な原子炉になりえます。この「どんな状況においても」には、運転中や燃料交換中などの通常の状況だけではなく、事故が起きたときや、燃料を取り出して安全に長期保管するときも含まれます。いわば、ゆりかごから墓場までの全ての状況において、核分裂生成物を管理し、「閉じ込める」ことが出来ることが安全な原子炉の必要条件になります。

 今、日本にある発電用の原子炉は、水で燃料を冷やしているため、軽水炉と呼ばれます。軽水炉の燃料は酸化ウランのセラミックでできていて、通常は核分裂生成物をこのセラミックの中に閉じ込めています。また、このセラミックはペレット状に加工され、ジルコニウム合金でできた燃料棒の中に収まっています。つまり燃料棒が核分裂生成物を閉じ込める障壁になっています。さらに、運転中には、燃料棒の周りを高圧の水が流れていますが、この高圧水を保持するために原子炉圧力容器という分厚い鉄の容器があり、この容器も、万一燃料棒が壊れた場合には、核分裂生成物を閉じ込めることができます。軽水炉では、さらに圧力容器の外側に、万一の事故に備えて、放射性物質を環境に放出しないための格納容器も準備されています。このように何重にも「閉じ込める」ための設備が用意されて、放射性物質が漏れないように工夫されています。

 しかし、福島第一原子力発電所では、これらのすべての設備が全部破られて、放射性物質が環境に放出されてしまいました。「閉じ込める」ことができませんでした。これは、核分裂生成物が発する微小な熱のためです。個々の熱は小さくても、核分裂生成物は大量に存在するため、冷やさないと燃料棒などが溶けてしまいます。このため、原子炉では「冷やす」ことも重要な安全の要素です。また、これらの微小な熱に比べて、核分裂で発生する熱は桁違いに大きいため、「冷やす」だけではなく、核分裂を「止める」ことが重要です。これが、安全な原子炉を考えるうえで重要な、「止める」「冷やす」「閉じ込める」です。どれも重要なのですが、「閉じ込める」ことが最も肝要です。「止める」「冷やす」ことは「閉じ込める」ための重要な手段になります。福島第一は「冷やす」手段が失われたため、結果的に「閉じ込める」ことが出来なかったのです。

 軽水炉の場合、水を冷却材として使っていることや、エネルギーを大量に取り出すために狭い場所で燃料をいっぱい焚いていることなどから、「止める」「冷やす」に失敗すると、「閉じ込める」にも失敗しやすくなります。従来の安全基準は、この「止める」「冷やす」「閉じ込める」機能が十分に働くことをしっかり保証することを見ていました。現在、規制委員会が提示した、新安全基準では、これに加えて、万一、「止める」「冷やす」に失敗したとしても、「閉じ込める」ことは確実に実施しようという考え方です。このために、電源車を用意したり、冷却装置の多様化をしたり、制御室を複数設けたりしています。しかし、いくら装置を準備しても、今度はその装置が使えなくなることを考えなくてはなりませんので、いたちごっこになり、最後はあるところであきらめることになってしまいます。

Q:安全な原子炉とは

 今、世界中で主に利用されている軽水炉は、上記のように、様々なシステムを追加して、「閉じ込める」を担保しようとしています。一方、軽水炉以外にも、様々な原子炉が考えられ、建設されてきています。その中の一つに、「高温ガス炉」という原子炉があります。燃料を水で冷やすのではなく、ヘリウムガスを用いて冷やします。この時、摂氏850度や950度といった高温のヘリウムガスを取り出すことができるので、高温ガス炉と呼ばれています。

 高温ガス炉の燃料は軽水炉と違い、約1mmの小さな球です。TRISO燃料と呼ばれています。中心の芯の部分が核分裂を起こすウランなどの燃料です。この燃料球の外側に、まず緩衝材としての低密度炭素の層、次に高密度炭素の層、次にシリコンカーバイト(SiC)の層、そして最外層がやはり高密度炭素の層です。この小さな球状燃料を、成形して「たどん」のような形に成形したり、60mm程度のボール状にして用います。しかし、燃料の基本は1mmの球です。ここで重要なのは、熱伝導性能が優れている炭素を用いている点と、強固なSiCを用いている点です。SiCは最近では飛行機などにも用いられる、強度が非常に強く、また安定な材料です。TRISO燃料では、核分裂生成物は、SiCの内側に閉じ込められます。実験では1800度を超えてもビクともしませんし、長期的にも安定で、100万年位は壊れないと考えられています。

 軽水炉では何重にも閉じ込めるための設備を設けていたのに対し、高温ガス炉では、1mmの球殻状のSiCが「閉じ込める」を担っています。運転中も、事故時も、また廃棄物処分の100万年も含めた、「どんな状況においても」核分裂生成物は1mmの球の中に閉じ込められています。運転から廃棄まで、安全を担保することができる、極めて優秀な原子力システムです。  軽水炉では冷却材の水がなくなると「冷やす」ことができなくなります。しかし、高温ガス炉では、冷やせなくなると燃料の温度が上がり、それによって核分裂が自動的に停止し発熱自体も小さくなります。また、炉の発熱密度が小さいために、炉心の温度もあまり上がりません。高温ガス炉では、原子炉容器の周りに空気の自然循環による冷却装置が設置されて、自動的に除熱されます。また、万一、この自然循環がうまく行かなくても、炉心の熱は地中に放熱されていきます。高温ガス炉の整備は地面の下に作られるので、熱は輻射などにより整備を通してどんどん土に伝わっていきます。このため、炉心温度は最大1600度程度までしか上がらず、TRISO燃料は壊れないのです。

 炭素がいっぱいあると燃えるのではと心配される方もいるかもしれません。高温ガス炉で使われている高密度炭素は燃えません。皆さんが知っている炭や練炭などは、炭素粒子が低密度かつ空隙だらけのため、表面積が非常に大きくなり、炭素と酸素が容易に反応しやすいので良く燃えます。一方、高密度炭素は表面積が小さく、また熱もすぐ逃げてしまうので、燃やすのは大変苦労します。つまり、高温ガス炉の炭素は、非常に燃えにくいのです。

 「閉じ込める」を1mmの球で担保し、「冷やす」「止める」に失敗したとしても自然に冷える、自然に止まるので、放射性物質が環境に出てくることは非常に起きにくくなります。今、軽水炉に比較して、格段に安全性が高い高温ガス炉に注目が集まっています。安全性が高いだけではなく、電気に加えて水や水素を作り出すこともできます。中東などで海の水を淡水化して利用することや、離島で水や水素を製造してエネルギーの自給自足を行うなどの用途が考えられます。

 安全性が極めて高く、また、コンパクトで高効率な原子力システムとして、世界で見直されています。この高温ガス炉技術では日本が最も進んでおり、茨城県大洗町にHTTRと呼ばれる実験炉もあります。ここでは、実際に事故時を模擬した実験を行い、それでも安全に止まるとともに冷却できることを確認する実験をしています。TRISO燃料の製造技術も日本が最も性能の良い燃料を作ることができます。進んでいる日本の優れた技術を世界に展開していくことが期待されています。

ヘリウムガスで冷却し球状燃料を使用

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