原子力発電所では、ウランの核分裂によって発生するエネルギーでお湯を沸かしてタービンを回し発電しています。原子核は陽子と中性子からできていて、ウラン235は92個の陽子に、143個の中性子から構成されています。この原子核が核分裂によって分割されエネルギーが発生します。なお、この分裂過程は確率的なもので、自然界には存在しない、様々な数の陽子と中性子を持った物質(核分裂生成物)が作られます。これらの物質は、通常不安定で、安定な状態になろうと少しずつ核変換(崩壊)をしていきます。崩壊の過程では、放射線を放出するとともに、少し発熱(崩壊熱)します。物質によって半減期が異なりますが、通常は数秒とか数分といった短いものがほとんどです。中にはセシウム137(半減期30年)など長いものもあり、核分裂生成物は非常に長い時間管理しておく必要があります。
発電に利用した期間、つまり核燃料を燃やした(核分裂を起こした)量にもよりますが、使用済燃料は大量の放射性物質(核分裂生成物)を内包しています。また、原子の数が膨大なため崩壊熱も大きくなります。福島第一原子力発電所で、燃料が溶けてしまったのは、この崩壊熱を冷やすことができなかったためです。よって、使用済燃料の発熱を冷やしつづける必要があります。なお、この発熱量は時間ともに、どんどん少なくなってきます。
使用済燃料は使用済とはいっても、条件が揃えばば核分裂連鎖反応を起こす可能性があります。核分裂が起きると、さらに大きな発熱になりますので、核分裂を起こさないようにもしなくてはなりません。さらに、使用済燃料が出す放射線で、周囲の水分子(H2O)が分解されて、水素を出すことも知られています。非常に少ない量の水素なので、爆発の心配はほとんどありませんが、やはり水素の発生量を管理しておくことも重要です。
使用済燃料は、運転中(核分裂をしているとき)に比べると、程度は非常に小さくなりますが、@放射線が人に影響しないようにする、A冷やす、B核分裂を起こさないようにする、C発生する水素が十分小さいことを確認する。という管理が必要になります。
福島第一4号機は、地震の時は停止中でした。地震の半年前に原子炉は止まり、燃料を使用済燃料プールに移して補修工事が行われていました。つまり、4号機の燃料は、既に停止してから3年以上が経っています。現状で、その発熱量は非常に小さくなっています。事故当時は、隣接する3号機の炉心が崩壊し、大量に生成された水素ガスが4号機に流れ込んで水素爆発を起こしたと考えられています。この水素ガスには、放射性物質も一緒に含まれていましたが、流入経路上に放射性物質を漉しとる装置があったために、比較的汚染レベルは小さいようです。
しかし、水素爆発により大量のがれきが使用済燃料プールの中に落ち込みました。大きながれきは取り除くことができますが、小石のような小さなものは取り除くことができません。昨年2体の新燃料を外部クレーンを使って取り出しました。新燃料は、まだ核分裂していませんので、発熱もしていませんし放射線も出ていません。これを調査したところ、いくつかの小石が燃料棒の間から発見されています。つまり、これから取り出す燃料にも、同じように、小石が落ちて引っかかっていることは容易に想像できます。
水素爆発によって、屋根がなくなってしまったため、使用済燃料プールが外気に直接さらされるようになりました。万一、何らかの要因で、燃料棒が損傷すると、燃料棒の中にある放射性物質が、外気にそのまま出て行ってしまう可能性もあります。使用済燃料プールや燃料棒は大きな地震などがあっても壊れないように作られていますが、間に挟まった小石が、余震で燃料棒や燃料集合体などに悪影響を及ぼす可能性もあります。管理が十分でない4号機の使用済燃料プールに置いておくよりも、管理が十分にできる共用プールに置いておいた方が、リスクは格段に小さくなります。このため、4号機の使用済燃料は、可能なかぎり早急に取り出して、共用プールに移す必要があるのです。
なお、共用プールに置いておくことのできる燃料の数はやはり限られていますので、共用プールに古くからおいてあった燃料は、プールから取り出してキャスクと呼ばれる専用容器で空冷保管されます。炉心から取り出されて長期間経つと、発熱は非常に小さくなり、空気中に置いておくだけで十分な冷却ができるようになります。
福島第一では事故の前にも、このような空冷保管されている燃料がありました。津波の影響をこれらの容器も直接受けたのですが、ビクともしませんでした。空冷ですので、頑丈な容器の中に置いておくだけです。管理も楽になりますので、世界中でこのような空冷保管が進められています。福島第一の高台の敷地内に、空冷保管の場所を建設し、上記の津波の影響を受けた保管容器も今はそこに移されています。その場所には、共用プールからの古い燃料が同様に保管され、共用プールのスペースを空けることになっています。
使用済燃料の取り出し作業は、世界中の原子炉で行われてきています。万一の事故を想定し、燃料体1体が破損したとしても、環境には影響がないように設計運用されています。もちろん、地震などが来ても大丈夫なように設計はされています。しかし、それでも故障することがあり得る事を考えて、バックアップをしっかりとっているということです。
4号機は事故を起こし、原子炉建屋の上部は壊れ、元々あったクレーンなどは使えなくなってしまいました。このため、新たに取り出しのためだけの建屋を増設し、クレーンを設置しました。新しい建屋の中は管理された状態で、事故を起こしていない原子炉建屋と同じような状況になっています。4号機はあまり汚染されていなかったことも幸いしました。つまり、通常の原子炉で行われている作業と、ほぼ同じ作業が行われる予定で、従来の経験の範囲内の作業になります。このため、事故を起こすリスクは十分に小さいと判断できます。また、万一事故が起きても、環境へは影響がないようなバックアップもとられています。
一つだけ気になるとすると、前述のように、小石が燃料の周りに落ち込んでいる可能性です。引き出すときに、これらの小石が燃料体を損傷させたり、収納ラックと接触して動かなくなったりといったことが起こる可能性は否定できません。このため、ラックからの引き抜きには十分な注意をはらい、慎重に実施されます。まずは、発熱や放射線がない、新燃料で経験を積んで、古い燃料から順番に取り出すことになります。 なお、東京電力の発表によれば、漏れなどのトラブルを起こした燃料体が3体あるそうです。これらの取り扱いはもっと慎重さが要求されますし、特殊な容器が必要になります。しかし、日本国内には、このようなトラブルを起こした燃料体を取り出した経験もありますので、それらの知見を活かし、安全第一で取り出すことができると思います。
4号機からの使用済燃料取り出しは、福島第一の廃炉に向けた一歩です。しかし、今後控えている、1〜3号機の使用済燃料取り出し、溶け落ちた燃料の取り出しに比べると、ある意味、簡単な作業です。この経験を踏まえて、非常に困難な1〜3号機の燃料取り出しに向けて知見を集約し、安全な廃炉を進める事が望まれます。この時、時間との戦いになる事にも十分留意しておく必要があります。まだ10〜20年程度は大丈夫でしょうが、時間とともに建屋や容器が劣化しリスクが高まってきます。日本人の得意な先送りは、リスクを高めるのです。これらのタイムリミットを見据えた着実な廃止措置が必須です。
| 従来作業と同様のため十分に小さい |
|---|