昨年末に福島第一原子力発電所を訪れる機会がありました。事故の後、訪問したのは3回目ですが、少しづつ収束に向けていろいろな設備が整備されていました。 事故前には、正門の隣にPRセンターがありました。そのPRセンターは取り壊され、替わりに駐車場と出入管理棟が建てられていました。福島第一の廃炉に向けて、確実な管理を行うことが必要です。この管理棟ができたことによって、3000人を超える作業員の方々が、スムースに入退構できることは、作業の効率化のためにも重要です。
まず、目に飛び込んでくるのが、1000トンの水を貯めることができる汚染水タンクです。ボルト締めのフランジタイプのものや、溶接タイプのものなど、大量の汚染水タンクに圧倒されます。今、30万トンの汚染水が溜まっていますが、まだそのリスクは高くありません。報道は針小棒大に騒ぎますが、1つのタンクが全部壊れて汚染水が直接海に流れ出ても、そのことによって一般の国民が直接的な健康被害を受けることはありません。特に、タンクから海までは非常に距離があり、また水を流す流路も、モニタリングされていて、管理されています。タンクの中の汚染水の量は多いですが、魚や貝のいる場所まで行く間に検出限界以下になってしまいます。
このため、万一壊れても、心配することは全くありません。しかし、新聞によって作られる風評被害は多大なものとなるでしょう。お化けがいるという噂の屋敷の柳が揺れただけで、大騒ぎをしているようなものです。本当のお化けは、そのようなところにはいません。新聞は、あえて本当のお化けを見ないようにしているのでしょう。
次に見えてくるのは、現在試運転中のALPS(多核種除去装置)です。その横に、追加のALPSを増設するそうです。汚染水からセシウムを除去するSARRYと、塩分を除去する脱塩装置もあります。作業員の方が24時間連続で運転をされているということでした。
また、使用済み燃料を空冷で保管するドライキャスク置き場もあります。空気の自然対流で冷却できるので、長期的にも安全です。震災当時には海のそばに置いてあり、津波に襲われましたが、その後の検査で、全く影響を受けていないことがわかりました。管理も容易で、かつ、安全で自然災害にも強いので、可能な限り早めに使用済み燃料はドライキャスクにするべきと思われます。
事故から半年後に訪れた時には、まだがれきに覆われていた3号機や4号機の建屋は、きれいに片付いていました。3号機の上では作業をする大型クレーンが動いていました。建屋の屋上付近は非常に放射線量が高いため、全て遠隔操作で動くそうで、日本の技術の高さをアピールしています。
4号機は、3号機から流れ込んだ水素によって水素爆発を起こし、建屋が壊れています。逆流の途中で放射性物質を除去する装置を逆方向に通過したことから、比較的放射線量も低い状況です。このこともあり、人が容易にアクセス可能です。使用済み燃料プールから使用済み燃料を取り出すための大きな鉄のビルが作られています。使用済み燃料プールを覆った形で作られていて、クレーンなども新たに設置されています。このビルは非常に頑丈で、使われている鉄骨の量は、東京タワーと同じだけあるそうです。これらの鉄骨は、4号機の使用済み燃料が撤去されたのちには、他の号機の燃料取り出し作業などに再利用できるのではないかと思われます。
使用済み燃料プールは、1年半前に訪れた時には、大気開放でしたが、今はこのビルに囲まれており、万一の場合でも、環境中への放射性物質の放出が抑えられるようになっています。がれきはすべて撤去され、透明な水の底に使用済み燃料を見ることもできました。環境の放射線量も比較的低く、安全に十分注意して、使用済み燃料の取り出し作業が行われています。
なお、4号機の地下は地下水で埋もれていました。3号機などと同様です。水素爆発の影響で吹き飛んだ扉なども散乱していました。改めて水素爆発を防ぐことの重要性が感じられます。 その後、タービン建屋の海側を通りましたが、いまだに津波で車がひっくり返ったままになっていました。このあたりは放射線量が高くて作業が困難なことと、片づけなくても安全上問題がないため、後回しになっているようです。いずれにせよ、放射線量が高い1,2,3号機の周りを除いて、かなり落ち着いてきています。
環境中に浮遊している放射性物質の量は、事故から3年近くがたち、かなり減ってきています。それでも、1〜4号機の周りで作業する場合には、全面マスクが必須です。これは浮遊している放射性物質を吸い込まないようにするためです。
このマスクがくせ者で、私は全く慣れませんでした。顔とマスクの隙間から空気が入ってくることを防ぐために、ゴムでしっかりとマスクを抑えます。慣れていないと、この圧迫によって、ひどい頭痛に襲われます。最初の30分は大丈夫なのですが、時間が経つにつれて、我慢ならないほどの痛さになります。前回も閉口しましたが、やはり今回も同様でした。
全面マスクだけではありません。汚染しないようにタイベックスと呼ばれる専用のカバーに着替えます。手袋や靴下は2重、3重にして、万一にも汚染しないようにします。タイベックスは密閉性がありますので、冬でも少し歩くと汗をかきます。夏の作業は、非常に大変だと思います。
なお、そのようにしっかり防護していても、脱ぐときにはちゃんと汚染検査をします。万一、汚染物質を持ち込んだり持ち出したりすると、本人だけではなく周りの人々に大きな迷惑をかけます。3000人の方々が、毎日、福島第一の廃炉作業のために、このような苦労の下で働かれていることに、改めて頭が下がります。
廃炉の最終形態は、普通の公園のように、誰でもが放射性物質のことを気にすることなく、自由に出入りできるようにする、いわゆるグリーンフィールドです。しかし、世界で見ても、グリーンフィールドまで廃炉が進んだ場所は、数えるほどしかありません。通常は、放射性物質が管理された状況で、十分に安全を確保した状況を目指します。
日本で廃止措置が終了しているJPDRは、茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構の敷地内にあります。誰もが出入りできる場所ではありませんが、十分に安全が確保されています。JPDRは日本初の原子力発電をした、小さな沸騰水型の原子炉でした。1980年代から10年をかけて廃止措置を行い、原子炉の廃炉に関する、様々な技術開発を行うとともに、日本の技術で廃炉ができることを実証しました。
放射線量の高い部位については遠隔操作を行うとともに、安全を管理した中での作業を進め、安全に廃止措置を行っています。福島第一の廃炉とは、放射性物質の汚染の度合いが1000倍以上も異なるので、そのまま利用することはできませんが、その時の技術を応用することで、ある程度の見通しは立てられます。
福島第一の廃炉は、ロードマップに従い、着実にリスクを低減していくことが必要です。新聞に踊らされることなく、本当のお化けを見据えて、お化け退治をしていくことが必要です。柳の葉はいくらでも揺れますが、お化けとは関係ありません。リスクの本質を見抜く力が必要です。JPDRで実証された日本の技術力を、世界に向けて改めて示す時です。30年かかると言われていますが、チャレンジングで、目に見えて人類の役に立つプロジェクトです。
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