原子力なんでもQ&A(22) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2014年6月号46ページより転載

原子力発電所事故対策とは


Q:事故の対策とはどのようなものでしょう?

 原子力発電所では、危ない核物質を大量に扱っています。設計どおりに機械や運転員などが正しく動いていれば安全は確保されますが、機械は壊れるものですし、人はミスをするものです。このようなことから、原子力発電所の設計においては、機械が故障したり、人が間違えたりしても大丈夫なような設計をしています。では、どこまで機械の故障や人のミスを考えればよいのでしょうか?

 発電所には、さまざまな機械がありますが、これらが故障する確率を小さく保つことが第一です。これは、保守保全という考え方で、機械の性能が十分発揮できるかどうかを検査し、必要があれば修理や交換をするという手法です。人についても、いろいろな状況での対応を勉強しておいて、ミスを少なくする工夫をします。試験によって正しい対応ができることを検査することなども行われます。

 しかし、どんなに保守をすすめても、やはり壊れるときには壊れます。このため、機械は壊れるものとして、ある機械が壊れたときにも、ちゃんと危険が回避できるような設計を行います。機械が壊れたり、人がミスをすると、プラントの状態が通常とは違う状態になります。

 この違う状態を即座に検知し、機械が壊れたとか人がミスをしたと判断して、自動的に安全な状態に導くような対応をしています。人の判断が入ると対応が遅れてしまいますので、これは機械やコンピュータが自動的に行う設計をしてあります。自動的に「とめる」「ひやす」「とじこめる」を確保することを目的としたさまざまなシステムが動き出します。

 即座に対応することが重要なために、自動的な対応がとられます。一方、機械やコンピュータでは対応できないような大きな故障もあります。また、小さな故障であっても、当初は機械が対応しますが、それを長期にわたって安全な状態に維持するためには運転員の判断や作業が必要になってきます。これが一般的な事故対策になります。 

 原子炉を冷やす冷却配管が破断したとか、ポンプが停止したとか、地震が起きたとか、さまざまな状況を想定して、事故時対応訓練がなされています。通常運転とはまったく違う状況になりますし、また実際の原子炉でこのような状況を作ることは危険ですので、シミュレータとよばれる訓練装置を用いた訓練がなされています。今では、ほとんどの発電所に、制御室を模擬したシミュレータが置かれていて、定期的に運転員が実際の事故状態を再現して、対応訓練を実施しています。

 さて、これだけいろいろな想定をして訓練をしていても、さらに厳しい事故が起こりうることは、チェルノブイリ発電所やスリーマイル島発電所の事故が教えています。このため、さまざまな機械が一度に壊れるような状況や、電気が一気に使えなくなるような非常に厳しい状況を想定した対策もとられていました。アクシデントマネジメントと呼ばれ、原子炉が溶けてしまうような状況(過酷事故)も考えて、対策が考えられていたのです。

 この場合のマニュアルは、制御室に常備されており、万一、想定外の事象に陥ったときでも、マニュアルにしたがって、原子炉が溶けないように、溶けてしまっても放射性物質が環境に出てこないように、さまざまな対策が進められていました。  事故時の対策は、これにとどまりません。このように冗長な対策をしていたとしても、放射性物質を環境に放出してしまうことがありえるかもしれません。放射性物質の影響から人を守るためには、逃げるしかありません。防災訓練などが定期的に行われ、実際に避難訓練なども行われていました。

 このように、福島第一事故の前であっても、事故を想定した冗長な対策がとられていました。まずは設計と保守、訓練で、機械や人の質を確保し、それでも故障やミスが起きたときは自動的に危険を回避し、さらに、それを上回る事故や故障の時には、運転員が事故対応訓練を行って安全を確保することが行われていました。さらに、万一原子炉が溶けてしまったとしても、放射性物質を放出しないためのさまざまなマニュアルがあり、最終的に放射性物質を放出してしまっても、避難を行うという対策が考えられていました。

Q:福島事故後の事故対策は?

 福島第一原子力発電所では、まず大きな地震に襲われました。設計で考えられていたとおりに、安全に原子炉が停止し、非常用の冷却装置で原子炉の冷却が開始されました。運転員もマニュアルや訓練経験などをもとに、原子炉の安全を確保する作業が行われていました。

 しかし、その後発電所を襲った大津波は、あまりに大規模なものでした。このため、すべての電源が失われるという状況に陥りました。いろいろな事故対応訓練を行ってきていた運転員にとっても、初めての経験でした。事故対応訓練では、かならずある程度の電力があることが前提でなされていたためです。

 従来から、必ず電気が使えるように、さまざまな対策がとられていたのです。例えば、緊急用の発電機は、分散配置し同時に使えなくならないようにしていました。福島第一の発電機も13個の発電機のうち3個は空冷で山側においてありました。しかし、発電機は大丈夫でも、その電力を送る電線や分電盤が津波にやられてしまい、電気が使えなくなってしまったのです。

 6号機の空冷発電機と分電盤は故障しませんでしたので、これを使って5号機と6号機は安全が確保されました。しかし、1から4号機は電気がなくなってしまいました。1、2号機では蓄電池も津波でやられてしまい、本当に真っ暗になってしまったのです。

 前述のように、原子炉が溶け出してしまうような非常に厳しい事故(過酷事故)を想定したマニュアルや訓練も備えられていました。残念ながら、これらの過酷事故のマニュアルでも、蓄電池は使えて、原子炉の状況を計測したり、緊急用ポンプや弁を動かすことができることが前提でした。蓄電池が使えなくなる、さらに厳しい状況が考えられていなかったのが大きな反省点となっています。また、避難訓練はなされていたのですが、実際の避難は必ずしも十分ではなく、避難によって何人もの方が亡くなるという状況になってしまいました。

 事故を受けて、過酷事故時対策の見直し、また避難を含めた防災対策の見直しが進められてきています。いわゆる新規制基準も、この過酷事故対策のひとつです。さまざまな厳しい状態を想定して、機械での対応を要求しています。残念ながら、今まで見てきたように、機械は壊れますし、また人の想像力には限りがあります。事故前は電気がまったく使えないという状況を想像すらしていませんでした。

 今、幅広く想像を働かせていますが、自然は人間の小さな考えなどすぐにひっくり返してしまいます。つまり、いくら想定を厳しくしようが、その想定を超えることは起こりうるということが事故の最も重要な反省点であるのです。しかし、新規制基準は、やはり想定に対する機械での対策を求めているだけで、過酷事故対策としては不十分です。想定外を想定できていないのです。逆に言うと、新規制基準を守ったからといって、過酷事故対策の一部が進められただけであって、過酷事故の対策にはなっていないことに注意しなくてはなりません。

 では、どのような過酷事故対策をとればよいのでしょうか?日本原子力学会では、事故直後から過酷事故対策の考え方をまとめ、先日、学会標準として発行しました。どんなに対策をとっても、想定外がありうることを前提とした対策になっています。これらの規格を参考として、是非積極的な対策を進めてもらいたいものです。

想定を超える事態の対策まで考える

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