前回、想定外を想定して、対策を考えておくことの重要性を議論しました。アクシデントマネジメントは直訳すると、「事故管理」となります。安全設計では、事故になった場合に備えて、様々な対策が取られています。しかし、それを超えた想定外の事故になることは、当然あり得ます。アクシデントマネジメント、事故を管理することとは、このように、想定を超える状態になったとしても、様々な想定外を考えて、対策をあらかじめ考えておくことです。
通常、アクシデントマネジメントは、2段階の考え方が取られます。想定外の事故になってしまった場合であっても、様々な方法を考え、運転員や発電所の人々が対策を打つことによって、原子炉が溶けないようにすることを炉心損傷防止(フェーズ1)と呼びます。それでも、原子炉が溶けて、放射性物質が原子炉の中に大量に出てきてしまう可能性があります。この時に、放射性物質を格納容器の中に閉じ込めて、環境に出てこないようにすることを影響緩和(フェーズ2)と呼んでいます。実際には、別々に対策をとるのではなく、事故の進展を考えて、できる対策を全て進めていくことになります。
事故になってしまうと、まず重要なのは、原子炉の状態がどうなっているのかを知ることです。通常の計測器のほかに、使える限りの情報を使い、状況把握に努めます。また、様々な想定外事象に対して、炉心損傷防止や影響緩和の観点から、あらかじめ対策のマニュアルが整備されています。
これは、事象進展とともに、どのような機器を使って炉心が溶けないように、また溶けてしまったらどのように緩和していくのかが、あらかじめ書かれたものです。
さらに、物事はシナリオ通りには進まないことが普通ですので、水がなくなった場合とか、シナリオにかかわらず、対応する方法も書かれていました。福島第一原子力発電所の制御室にも、このマニュアルは整備されていました。残念ながら、津波による被害は、アクシデントマネジメントでも管理できないくらい大きなものでした。結果として、対応が不十分になり、放射性物質を環境に放出してしまいました。
では、アクシデントマネジメントの考え方は、間違っていたのでしょうか? 日本原子力学会においては、標準委員会や事故調査委員会で検討を進め、現在の安全設計の考え方や、アクシデントマネジメントの考え方については、事故後であっても間違っていないことを結論付けています。考え方そのものは間違っていませんでしたが、あらかじめ考えられていた対応策が不十分であったことが、大事故を防げなかったのです。これは、福島第一と同様に、設計を超える事態に陥った福島第二原子力発電所が大事故に至らずに、安全に停止していることも一つの傍証です。
福島第二でも、原子炉の熱を捨てられなくなり、格納容器の圧力は上昇してきました。しかし、あらかじめ考えられていたアクシデントマネジメントに従って対策するとともに、現場の対応と、例えば新潟県からポンプを運んで壊れたポンプと取り換えるなどの応急措置が功を奏したのです。現場の方々の知恵と工夫が、福島第二を事故から救ったと言っても過言ではありません。あらかじめ考えられていたアクシデントマネジメントに加えて、現場力が事故を封じ込めたのです。
一方、福島第一でも、アクシデントマネジメントと、現場の対応で対策を進めました。残念ながら、電気が一切なくなるという、あまりに厳しい条件下に置かれたため、十分な対策が取れずに、事故を防げませんでしたが、事故の影響を、ある程度緩和することには成功していたことが、様々な事故調の報告書などから明らかになってきています。アクシデントマネジメント策は電気があることを前提に作られていましたので、これらはほとんど役には立たず、現場力が優れていたと言っても良いかと思います。
では、事故を受けて、アクシデントマネジメントはどうすればよいのでしょうか?原子力学会では、事故を受けた改訂の視点を4つ上げています。
まず、アクシデントマネジメントは継続的に改善を進めることが30年後も安全を担保するために重要であるとしています。事故直後の今は、みなしっかり考えていますが、事故を経験した世代が引退したのちもアクシデントマネジメントを有効に使うためには、本気になって改善を継続する以外に道はありません。日本人はのど元過ぎると熱さを忘れる傾向が強いので、そうならないことが重要です。
次に、想定外を想定して対策を取ることを示しています。例えば、電気が一切なくなった場合にどうすればよいのかを考えておくことや、超大型地震で建屋が壊れた場合にどうすればよいのかを考えておくことなど、従来、あり得ないとして無視していた状況に対しても、ブレーンストーミングなどであらかじめ教育訓練をしておくことを推奨しています。このような極端な場合には解がないかもしれませんが、現実はもう少し複雑で、なんらかの系統が生き残っているものです。これらの生き残った系統をどう使うかを考えておくことが、運転員の経験値を高くすることができます。
3番目として、総合的なリスクを考えることを推奨しています。単なる確率論的リスク評価で出てくる数字だけを考えるのではなく、数字の持つ意味や不確かさ、さらには数字に出てこない環境を考慮して総合的に判断のできる人材を養成していくことが重要になります。
最後に、マネジメントクラスの導入です。対策には教育といったソフト的な対策や、機器を追設するなどハード的な対策など様々なものがあります。また、既設の設備や要員を利用して対策することが重要になります。これらの維持管理や運営には、重要なものとそうでないものがあります。玉石混淆の対策に対して、重要なもの(マネジメントクラス1)とそうではないもの(マネジメントクラス3)のように、分類を行い、その分類に従って管理を進める必要性を説いています。何でもかんでも維持管理することは、重要なものが抜けてしまうので問題です。事実、福島第一の事故は、あまり重要ではない、書類の整備に力を注いだため、重要な津波評価が後回しになった感も否めません。リスク上重要な対策を重要視しましょうという当たり前のことです。
以上をまとめると、新しいアクシデントマネジメントの考え方として、継続的改善の中でアクシデントマネジメントを考えていくこと、想定外があることを想定してマネジメント中心の対策を考えること。アクシデントマネジメントを考える上で総合的なリスクを低減すること、対策の重要度を考えてマネジメントクラスを定義することを規定しています。
事故が起きた後の対策として、新規制基準が目の前の思いついた対策を考えるだけなのに対して、総合的なリスク低減を目標にマネジメント対策を考えることが大きく違います。想定外を想定して対策をとることや、重要度を考慮することなどは、新規制基準では、抜け落ちている重要な視点です。
ソフトウエアの部分を中心として、対策を考えることによって、発電所をより安全にすることを目標としています。原子力規制委員会の審査は単なる法律への適合性を見ているだけですので、原子力学会の標準をベースに、原子力発電所の本質的な安全を高める努力をしていただくことが、原子炉を運転する重要な視点であろうと思っています。
| 事故管理とは様々な想定外を考え対策を施すこと |
|---|