原子力なんでもQ&A(25) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2014年9月号48ページより転載

実質上排除できることとは


Q:掲示された重要な視点とは

 7月8日にEU各国の規制当局が集まり、今後のヨーロッパにおける原子力規制についての新しい考え方を公表しました。いくつかの重要な視点が提示されています。(1)実質上排除できない事象については、全て対策を考えることを要求しています。また、(2)規制の効果的な独立性を明確化するとともに、(3)規制の実力が十分にあり、かつ予算的にも保証されていることを要求しています。このために、6年に一回ずつ、(4)ピアレビューと呼ばれる相互評価をお互いの規制組織が実施することになったそうです。このほか、緊急時対応などについても考えていくことがうたわれています。

同じ時、チェコのプラハにおいて、米国機械学会、日本機械学会、中国原子力学会が主催する原子力国際会議(ICONE22)が開催されました。この会議においても、ヨーロッパの新しい規制の考え方や、日本国内の規制の現状などについて、活発な討論がなされました。

 (1)実質上排除については日本語で書くとわかりにくいですが、英語では、practically eliminated(実質上排除できる)と言います。実質上排除できない事象については、新設炉だけではなく、既設炉や廃止措置中の原子炉についても合理的に実行できる(reasonably practicable)対策を行うことを要求します。なお、この要求は、従来から国際原子力機関(IAEA)をはじめとする、世界中で言われていたことを改めて明確化したものです。日本においても、実質上排除できない事象については、対策が行われてきています。

実質上排除できる(practically eliminated)ことを説明することは、リスク概念を考えないと困難です。これを保守的に考えれば、全ての可能性が排除できなくなります。例えば、隕石が発電所を直撃する事象は、一般的には実質的には排除できると考えられます。隕石が落下する確率や、それが発電所を直撃する確率を考えれば、隕石直撃確率は非常に小さくなり、実質的に排除できることになります。

 しかし、直撃しなくても、近くに落ちれば、衝撃波が生じて構造材に影響を与える確率は、直撃よりも大きくなります。実際、一日数百個もの小さな隕石が落下しているそうです。しかし、それでも、構造材に大規模な影響を与えるだけの大きな隕石が落下してくる確率は、十分に小さくなるでしょう。つまり、隕石の影響については実質的に排除できることになります。  しかし、保守的に考えれば、ゼロではないので排除できないと考えてもおかしくありません。隕石については、比較的、統計的な情報が充実しており、ある程度の不確かさで頻度が予測できることから、実質上排除できると説明することが可能です。では、十分な知見が得られておらず、いろいろな意見がある場合はどうでしょうか?

Q:例えば敦賀の活断層を対象に考えてみましょう

 敦賀半島にある浦底断層は、排除できない活断層です。この活断層が動くことを考慮し、耐震設計が十分な余裕をもって行われています。一方、敦賀発電所2号機の下を通っていると言われている割れ目が、断層かどうかについての議論がなされています。この割れ目が動くことが、実質上排除できるか、できないかが問題です。発電所を設置する時に評価したデータによれば、この割れ目が動くことが実質上排除できることがわかっています。一方、原子力規制委員会(以下、規制委員会)は、これらのデータについて、再度見直しを行うことを要求し、この割れ目が動くことが実質上排除できないのではないかと判断しました。ここで、おかしいのは、実質上排除できない場合には対策を取ることが必要なのですが、なぜか、対策が取れないと勝手に決めてしまいました。世界の常識から、間違えた判断です。

 さて、その後、さらなるデータが蓄積され、規制委員会が指摘した割れ目が動くことが実質上排除できることを定量的に説明しました。また、原子力安全推進協会は、もし、割れ目が動いた場合に発電所がどのように応答するかを評価しています。 http://www.genanshin.jp/archive/sitefault/ これらの評価をベースに、対策を検討することができます。つまり、実質上排除できることを定量的に説明するとともに、それでも、変位することを想定して、対策を取ることによって、安全を確保できることができるのです。アメリカでは、同様に、敷地近傍の活断層が動いた場合に、発電所に影響が及ぶかどうかを確率論で評価し、実質的に排除できることを確認しています。これは、事業者も評価をするとともに、米原子力規制委員会が独立に評価をして確認しています。規制委員会に、それだけの技術力が備わっていることが必要です。残念ながら、日本の規制委員会は素人の集まりのため、技術力が低く、間違った議論を行っているようです。

 活断層だけではありません。日本の規制当局は、不必要に保守的を重んじることで、過ぎたる規制を行って、プラントを危険にする対策を推奨しています。文言にこだわり、無意味にスプレー配管を二重にするように要求したり、活断層に対する間違った議論を進めています。つまり、実質上排除できるかどうかを判断する能力がないため、メンバーが思いついた事象に対してのみ、対策が行われています。思いつかない事象については、実質上排除できるかどうかの評価を行うことなく、対策を行わなくても良いことになっています。思い付きの事象で、かつ、リスクをあまり大きく下げない対策であっても、様々な対策を行うことを要求しています。ある意味中途半端な対策が大量に行われていて、思いついた一部だけ、不必要に重厚な対策になっているのです。

 なお、実質上排除できない事象に対しては、対策を取ることが求められていますが、実質上排除できる事象に対しては、何もしなくても良いのでしょうか? 前回、想定外を想定することの重要性を議論しました。実質上排除できる事象に対しても、想定を超える、もしくは想定していない事象として、主にソフトウエアを主体とする対策を行うことが、原子力学会の標準においては要求されています。

 さて、EUの話に戻ります。(2)規制の効果的な独立性を明確化することと、(3)規制の実力が十分にあり、かつ予算的にも保証されていることは相互に関係しています。規制に実力があれば、独立性を担保することは簡単です。実力が無い場合、下手に孤立すると大変なことになります。権力があって実力がないと、民主党政権と同じで、日本はグチャグチャになり、世界から孤立してしまいます。中途採用者を大量に採用しようとしていますが、中途採用者は、メーカーや企業で必ずしもトップであった方ではありません。一方、アメリカの規制委員会は、新卒者に長期的な教育を進め、リスクを中心とした原子力安全に関するプロを養成しています。日本は、時間がないこともありますが、残念ながら実力もなく、独立性の効果がない孤立状態にあります。是非、実力を十分に養い、効果的な独立性を担保してほしいと思います。

Q:日本の規制はどうですか

 プラハの国際会議でも、日本の規制の在り方が議論されましたが、日本もEUに加盟してピアレビューを受けることによって、規制の実力が上がるのではないかという意見もありました。日本の規制当局も、EU(海外)の規制を勉強する機会にも恵まれますし、逆に世界の規制の在り方についてレビューを受ける大変良い仕組みと思います。EUは地域的に遠いかもしれませんので、韓国、中国、台湾、日本の東アジア4か国の規制当局同志でピアレビューを行うことも有効かもしれません。4か国の中で、最も遅れているのが日本の規制です。発電所の数は最も多いし、経験も多いはずなのですが、リスクを考慮するという観点では、最も遅れています。これは、日本の原子力規制がガラパゴス化しているからです。是非、中国や台湾の優れた規制を学んで、世界標準の規制に近づいて行ってもらいたいものです。

リスク概念を考え対策を施すことで安全を確保

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