福島第一原子力発電所事故時の発電所の責任者であった吉田所長が、政府の事故調査委員会のヒアリングを受けた時の発言録がいわゆる吉田調書です。政府事故調査委員会は、吉田所長以外にも数多くの関係者からヒアリングを実施し、その内容をベースとして事故調査報告書をまとめています。この報告書をめぐる様々な課題がクローズアップされています。
まず第一に、このヒアリングは非公開を前提としてのものであり、それをまとめた調書も当然非公開を前提とされるべきものです。吉田所長も、政府に対して、この内容を非公開とするよう上申書を提出しています。それを本人の了解なしに公開することは問題です。
第二に、非公開であるべき調書の内容が、なぜか複数の新聞社に漏れたことです。日本国政府の情報管理が、あまりに無防備であることを示しています。機密であるべき情報が、いとも簡単に漏れています。国としての形をなしていないと言っても良いと思います。昨年、機密保持法案が成立していますが、おそらく、今の政府では、ほとんど骨抜きだと思います。
第三に、その漏れた情報を、朝日新聞と産経新聞などは本人の意向を無視して、公開していることです。特に、ご本人が亡くなっていることから、ご本人はクレームをすることもできない状況で、本人の意思とは異なる開示が勝手に行われていることです。新聞社の勝手な判断です。まるで新聞社は、神様になったかのような形です。
第四に、朝日新聞は、調書の内容を、意図的に誤って伝えました。もし、意図的な誤りでないのだとすると、朝日新聞社の記者や編集部は、日本語読解能力がないことになります。例えば中学入試で、調書内容を読んで正しい解釈を選べという問題が出た場合、朝日新聞の解釈をしたら、得点はもらえないでしょう。つまり、日本語読解能力が、中学生以下であることの証明になります。一部、そのような記者がいたとしても良いのですが、編集部で必ず誤りは正されるのではないかと思います。そうではないとすると、明らかに、意図的に間違った解釈をしていることになります。意図的な誤報といって良いでしょう。
残念ながら、朝日新聞は、読者に対して、自分の意図を誘導することが仕事であると勘違いしているところがあります。慰安婦問題にしても、集団的自衛権にしても、正しい情報を伝えることをあきらめ、自分の意図通りに情報をフィルタリングして伝えています。新聞社も商売ですから、売るためにやっているのかもしれません。しかし、信頼性が全くないことを証明してしまいました。大変に残念です。
なお、この記事を書いた後、朝日新聞は誤報を謝罪しました。しかし、情報を操作して伝える姿勢がすぐに治るとは思えません。改善が進むことを、しっかりウォッチしていく必要があります。
公開された内容については、政府事故調査委員会の報告書にまとめられており、特に技術的には新しい情報はありません。朝日新聞の誤報がなければ、公開されない調書であったと思います。既に門田隆将氏の著作「死の淵を見た男」や、拙著「証言 班目春樹」などによって、当時の現場の状況や、官邸をはじめとする政府の状況が報告されています。これらを超える技術的な情報はありませんが、改めて、当時の対応を知る上では貴重な資料です。
吉田調書は、日本国の危機管理が、いかに素人であったかを証明する資料であると思います。福島第一原子力発電所の事故原因は、技術的には、ほとんどわかっており、世界中の原子力発電所において、しっかりとした対策も取られています。しかし、ソフトウエア、特にマネジメントの失敗に関しては、日本においては、ほとんど対策が取られていないと言っても過言ではありません。
具体的な危機管理が大失敗していることを反省し、改善につなげる必要があります。これらの一部については、政府事故調査委員会の報告書や国会事故調査委員会の報告書で明らかになっています。今回、吉田所長の調書以外にも、様々な方々の調書が公開されました。さらに、国会事故調査委員会の調書が公開されれば、改めて事故の状況を評価することができると思います。
いくつかの重要な視点があります。
まず、現場対応のマネジメントという意味では、ある意味、水素爆発などによる死亡者が出なかったことは、ほとんど奇跡に近かったことがわかります。当時の何も情報がない状態、かつ、水を入れなければならないのに対して時間だけが経過していく状況が克明に記されています。情報自体がない中で、様々な判断を迫られていきます。そこに、本店や官邸からの意味のない指導が入り、さらに現場を混乱させていきます。
今後もいつ大きな地震に襲われるかわかりません。また、それ以外の災害が来る可能性もあります。原子力発電所で働く全ての人が、極限状態における情報収集と判断の例として、この調書を勉強することによって、危機に対する経験値を高めることができると思います。これは、原子力だけにとどまらず、マネージャーのための重要な事例テキストになっていると思います。現場マネジメントを行うすべてのマネージャーは、生の声を読んでおくことが重要かもしれません。
次に、本店や政府の危機管理です。東京電力に危機管理の専門家が居なかったことは仕方ありません。トップである社長も、必ずしも危機管理についての訓練は受けていなかったのだと思います。原子力発電所の仕組みや現場を良く知っている発電所経験者に危機管理の訓練を積ませて、社長のサポートをさせることが必要でしょう。これには、各社に一人ではなく、できれば事業者連合によって、日本全国で3グループ程度を常備しておくことが重要だと思います。
アメリカでは、事業者連合がFLEXと呼ばれる事故管理体制を構築しています。電源車や予備ポンプなどのハードウエアに目が行きがちですが、その本質は、事故管理の専門家グループを準備しておくことにあります。いざとなれば、人の経験が非常に役に立ちます。日本においても、緊急時対応グループを作り、緊急事態には、そのグループが主導して社長の判断をサポートすることが必要です。危機管理の専門家がグループに居ても良いかもしれません。
なお、マネジメントで最も重要なのは情報管理です。通常の通信が使えなくなることを想定して、複数のバックアップと情報伝達手段を用意しておくことも重要です。
また、最も問題なのは、政府と官邸です。日本で最も危機管理のプロがいるのは自衛隊です。原子力規制委員会は、危機管理については素人の集まりですので、事故の対応ができるとは思えません。結局は電力会社の社長と同じです。電力会社と同様に、規制庁の中に、専門の部署を作り、その部署では訓練を繰り返すことや、原子炉過酷事故の詳細を研究することや、各発電所の現場を知ることを仕事として、いざという時に備えることが必要です。ある意味、他の仕事はせずに、危機管理のみを仕事とする部署です。自衛隊の中に常置しておいても良いかもしれません。福島の事故時には、原子力保安院が政府や官邸から逃げてしまったことが、首相から現場に電話が入るという、最も悪い事例を作ってしまいました。
最近は、化石燃料の多量消費のためか、非常に厳しい豪雨や大型台風も増えてきています。また、地震などの良く知られた災害のほか、太陽風や隕石など、あまり聞きなれない災害の可能性も増えてきています。危機管理の重要性はますます高まっています。是非、今回公開された様々な情報をテキストにして、どうすればよいのかをしっかり考えていくことが重要であると考えます。
| 情報管理マネジメントの根幹 |
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