福島第一原子力発電所は大きな事故を起こして壊れてしまいました。これ以外に、日本には約50基の原子力発電所があり、古い原子力発電所は廃止して、新しい原子力発電所を作ることが必要です。また、新しい発電所でも、いずれ寿命を迎えますので、その時は、発電所を廃止することが必要になります。火力発電所などでも、廃止措置が行われますが、原子力発電所の場合は、放射性物質というリスクを内包していることが大きく異なります。
原子力発電所は、原子核の核分裂によってエネルギーを作り出していますが、この時同時に、大量の放射性物質を作り出しています。これらの放射性物質には大きく分けて2種類あります。核分裂生成物と放射化物です。ウランやプルトニウムの原子核が分裂したことによって、2つの新しい原子核ができます。この新しい原子核は、元々世の中には存在しないものがほとんどです。これらは非常に不安定でγ線やβ線を出しながら、順次、別の原子核に変わっていき、最終的には鉛などの安定な原子核に落ち着きます。この過程を崩壊と呼びます。
γ線などの放射線を出すことから、放射性物質となります。原子核ごとに崩壊のしやすさが決まっています。崩壊しやすい原子核は、半減期が短い放射性物質で、短時間でなくなっていきます。一方、崩壊しにくい原子核は、半減期が長くなり、なかなかなくなりません。例えば、セシウム137は30年で半分になり、ヨウ素129は1000万年で半分になります。
一方、放射化は、鉄やコンクリートなど、元々放射性物質でなかった物質に、核分裂でできる中性子が衝突して、放射性物質に変えてしまうことにより生じます。炉心の中や、すぐ近くにある構造材などが容易に放射化します。原子炉容器の周りには中性子の遮蔽材があるので、中性子は外には出てきません。このため、放射化するのは、炉心の近くにあるものだけになります。
原子力発電所の廃止措置とは、これらの放射性物質を管理しつつ発電所から除去し、除去した放射性物質を人や環境から隔離した状態で、安全に廃棄することで、原子力発電所に存在する放射性物質によるリスクを、順次低減して行く作業のことを言います。廃止措置によって、最終的には、発電所そのものからは、放射性物質によるリスクがなくなります。最終状態には様々な状態が考えられていますが、最もリスクの低い状態は、発電所が設置される前と同じように、自由に出入りができるようになることで、グリーンフィールドと呼びます。ドイツの古い研究用原子炉の跡地では、このように廃止措置が終了した場所もあります。
運転を終了した原子力発電所(以降プラントと呼びます)に残っている放射性物質で最も多いのが、使用済燃料の中にある核分裂生成物です。廃止措置では、まず、この使用済燃料を、プラントから取り出して、中間貯蔵などの別の管理状態にすることが行われます。プラントから使用済燃料がなくなった時点で、
リスクは大幅に低減されています。 この時点までくると、原子力発電所の廃止措置において考慮すべき放射性物質は、主として放射化物及び放射化物によって汚染されたものになります。放射化物は構造材だけではなく、水に溶けている極微量の不純物や、構造材から溶け出したイオンなどもあります。定期点検などで、燃料や制御棒を交換する際には、これらの放射化物の一部は格納容器の中などを汚染することがあります。これらの影響は十分に考慮しなくてはなりません。
ところで、事故を起こした福島第一原子力発電所の廃止措置と通常の原子力発電所の廃止措置の一番の違いは、核分裂生成物による汚染を考慮する必要があるかどうかです。半減期約30年のセシウム137などは、福島では重要な核種の一つですが、通常の原子力発電所の廃止措置では考慮する必要がほとんどありません。核分裂生成物は使用済燃料として取出してしまっていますので、考慮すべき放射性物質は、半減期約5.3年のコバルト60などです。これは、構造材などに微量に含まれるコバルト59に中性子が当たることで作られる放射化物です。また、福島と違って、これらの放射性物質は、管理された状態にあります。廃止措置においては、放射性物質を管理したまま、つまり、閉じ込めたまま、順番にプラントを解体していくことになります。 運転中のプラントでは、「止める」「冷やす」「閉じ込める」が重要ですが、使用済燃料が搬出された後の廃止措置中のプラントにおいては、放射性物質を「閉じ込める」ことのみが必要になります。
原子力発電所は、地震などに耐える必要があるために、大量の鉄筋とコンクリートなどで作られています。また、原子炉容器やポンプなど、数多くの機器で構成されています。前述のように放射化した機器、鉄筋、コンクリートなどは、中性子が飛んでいる原子炉周りの非常に限られた場所に集中的に存在しています。ほとんどの機器、鉄筋、コンクリートなどは、原子炉から少し離れてしまえば、全く放射化していませんし、放射性物質にも汚染されていません。これらは廃棄物全体の95〜97%程度になります。つまり、ほとんどの廃棄物については、放射性物質による影響は全くないことになります。残りの3〜5%の廃棄物をしっかりと管理すればよいことになります。
廃止措置を始めようとする場合には、まず、どこにどれだけの放射性物質があるのかを調べて、廃棄物がどれだけ発生するのかを調査することが必要です。この調査のためには、原子炉で発生した中性子が、どこにどれだけ飛んできているのかを知る必要があります。原子炉の中の中性子は、運転中に計測されていますが、原子炉周りの構造材が、どれだけ放射化されているかを知るためには、様々な場所で中性子の量を測って計算する必要があります。このため、廃止措置を行うには、運転中に、金箔やインジウム箔などを用いて様々な場所における中性子の量を計測することが行われます。
これらの情報は、運転には不要ですが、廃止措置のためには重要な情報なのです。しかし、まだ当分運転を続ける予定のプラントでは、これらの情報は計測されていないことがほとんどです。廃止措置を数年後に実施しようと計画した段階で、初めて計測することが一般的です。
現在、福島の事故を受けて、規制基準が厳しくなり、特に古いプラントにおいては、再稼働せずに廃止措置を選択するものも出てくると予想されます。ところが、当然のことながら、まだ20年くらい運転するつもりでしたので、中性子の量の計測は行われていないプラントがほとんどです。このため、放射化物の量の推定精度が非常に悪くなります。
例えば、浜岡発電所1号機は、2001年に水素爆発による配管破断事故を起こしてから運転していませんでしたが、そのまま、2008年に廃止措置を決めました。このため、時間をかけて、様々な調査が現在も行われています。これから廃止措置を選択するプラントも、廃止措置を始めてから、様々な調査を進めることになるため、時間が余計にかかるのではないかと思われます。
従来、運転を止めることを決めてから、廃止措置の準備にかかることが通常でした。しかし、廃止措置に関する情報収集は、運転開始と同時に取得を開始して、廃止措置に向けて少しずつ精度を上げていくことが重要ではないかと考えています。国際原子力機関(IAEA)なども、設計時点で、廃止措置を考慮した設計を行うことや、建設段階においても、廃止措置、特に廃棄物物量削減を目的としたマネージメントを行うことの重要性を説いています。
今後、再稼働を進めるプラントも増えてくると思いますが、廃止措置に向けた早めの対策を行うことが重要であろうと考えています。
| 早めの対策を行い、放射性物質を閉じ込めつつ壊すこと |
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