原子力なんでもQ&A(30) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2015年2月号48ページより転載

廃止措置と低レベル廃棄物


Q:廃止措置の経験はあるのですか

前回のQ&Aで、通常の事故を起こしていない原子力発電所の廃止措置について話をしました。原子力発電所の廃止措置を安全に進めることは、原子力エネルギーから、数多くの目に見える、もしくは目に見えない恩恵を受けてきた我々の世代の責任です。今、日本には48基の原子力発電所があります。これらの原子力発電所は遅かれ早かれ、廃止措置をしなくてはなりません。2014年夏の段階で、廃止措置を進めている原子力発電所は、日本原子力発電株式会社東海発電所、日本原子力研究開発機構ふげん発電所、中部電力浜岡発電所の1号機、2号機の4基です。

日本においては、茨城県東海村にあった、日本原子力研究所(日本原子力研究開発機構の前身)のJPDRの廃止措置が行われています。JPDRは、1963年に臨界を達成した電気出力1万2500kWの沸騰水型原子炉(BWR)で、1976年に運転を終了しています。この間13年にわたって電気を供給するとともに、運転や保守の経験を積むことで技術者の養成などに貢献してきました。このJPDRの廃止措置は、1986年から開始され、1995年に終了しています。 この廃止措置によって、数多くの経験を積むとともに、遠隔解体など様々な技術が開発実証されてきました。この廃止措置の経験をベースとして、日本における原子力発電所の廃止措置が進められてきています。100万kWの原子力発電所の廃止措置を、JPDRと比べると、放射性物質の総量は格段に大きくなりますが、基本的な技術は確立されています。

廃止措置は、準備、除染、解体、廃棄物管理などに分けられます。基本的には、放射性物質を管理した状態、つまり「閉じ込める」を担保しつつ、解体を進めていくことになります。日本原子力学会では、JPDRや東海発電所、ふげん発電所などの経験をベースとして、安全な廃止措置を進めるための様々な規格を制定してきています。

例えば、日本は地震国なので、解体中に地震が来ても大丈夫なように、「廃止措置における耐震の考え方」を示しています。運転中に必要であった機能が不要になった機器や構造物を、放射性物質の閉じ込めを確保しつつ解体していくことになります。この時、地震が来ても閉じ込めが確保されることが重要な視点になります。解体対象物を、閉じ込め機能を持った囲いで覆うだけではなく、原子炉建屋を閉じ込めのバックアップとして考えて解体していくことになります。

これらの廃止措置に関する規格群は、日本の廃止措置技術の集大成と考えることもできます。具体的な廃止措置の経験を、これらの規格に反映しながら、継続的に改訂を進めることで、安全な廃止措置が進められていきます。なお、廃止措置で重要なのは放射性物質の管理です。前回のQ&Aで紹介したように、考慮すべき放射性物質は、中性子によって構造材などが放射性物質に変わってしまう放射化物と放射化物による汚染を考える必要があります。

また、代表的な放射性物質は、半減期が約5.3年のコバルト60などです。半減期が比較的短いので、放射性物質がなくなるのを待つという戦略をとる場合もあります。安全を確保したまま、そのまま管理し続けると50年もすれば、放射性物質の量はかなり減ります。その後、解体を行うという戦略で、イギリスなどで考えられています。

一方、すぐに解体してしまい、廃棄物を地中に埋めて管理するという、アメリカなどが取っている戦略もあります。日本では、ある程度、放射性物質がなくなるのを待ってから解体することが検討されています。

Q:廃棄物の量は

プラントを廃止措置して、解体をしていくと大量の廃棄物が出てきます。では、どれだけの固体廃棄物がでるのでしょうか。ホームページでも公開されている、浜岡発電所1号機の廃止措置計画認可申請書をベースに例示してみます。

まず、全く放射性物質に汚染されていない廃棄物がコンクリートなどを中心に19万トンです。これは、普通のビル解体などで出てくるコンクリート廃棄物や鉄廃棄物などと全く同じに扱うことができます。原子力発電所は、地震に耐えるために、大量の鉄筋とコンクリートで建物を作っています。これらのコンクリートや鉄筋などは、全く放射化していませんし、汚染もされていません。つまり、普通のビル解体と、実際同じものなのです。なお、環境省のホームページによれば、日本全体で考えると、ガラスくず、コンクリートくずなどは年間600万トン出ているそうです。19万トンの廃棄物は、これ比較しても、さほど多くありません。ちなみに、産業廃棄物全体では、年間3億8000万トン出ているそうです。

次に、放射性物質として扱う必要がない廃棄物が1万トンです。汚染している可能性は否定できないのですが、あったとしてもバックグラウンド程度の非常に低い汚染であり、かつ、しっかりと検査をして汚染を考慮する必要がないことを確認した上で排出されるものです。このように評価と検査をして排出されるものを、クリアランスと言います。これも、再利用などを含めた、一般産業廃棄物と同じに扱うことができます。

この2種類の廃棄物は、通常の産業廃棄物と同じで、再利用することが可能です。福島の事故の前には、これらの鉄骨をベンチとして再利用することもされていました。いわゆる風評被害が懸念されますが、科学的に、かつ論理的に影響がないことが保証されているものです。

さて、放射性物質に汚染されている廃棄物も当然出てきます。これらは、低レベル廃棄物と呼ばれます。放射能レベルの低いものからL3,L2,L1の3区分に分けられています。放射能レベルが極めて低いものをL3廃棄物と呼びますが、これらが6000トンでてきます。コバルト60は、半減期が約5.3年でなくなっていきますので、30〜50年管理すると、バックグラウンドと同じほどになり、放射性物質として考える必要がなくなってしまいます。つまり、土の中に埋めて、50年程度管理をすれば、危険性がなくなってしまうのです。これは時間が経ってもなくならないPCBなどの廃棄物と違い、時間が経つと危険性がなくなるという放射性廃棄物の大きな特徴です。ただ、6000トンもありますので、比較的広い土地が必要になり、また、50年程度の管理が必要になります。

次に放射能レベルの比較的低いL2廃棄物が1000トン、放射能レベルの比較的高いL1廃棄物が100トン出てきます。これらも、安全な容器に入れて、地中に埋めて管理することが考えられています。L3よりも放射能が高いために、なくなるまでに100〜300年程度の管理が必要になります。しかし、物量はさほど多くなく、また、後世の子孫にお願いしなくてはなりませんが、300年間であれば、十分管理ができると予想されます。地中に埋めるにあたっても、万一、間違えて畑などを耕さないように、比較的深いところに埋めることが考えられています。                                       

Q:廃止措置を進めるのに最も重要なことは何ですか

 さて、全部で約20万ンの廃棄物のうち、管理をする必要のある低レベル廃棄物を割合で考えると、L1廃棄物で3%, L2は0.5%, L1は0.05%になります。しかし、現状で、L1やL2の廃棄場所やL1の管理方法などは決まっていません。これらの低レベル廃棄物の管理場所と管理方法が決まれば、前述のように、JPDRの廃止措置を実施した実績がありますので、廃止措置技術自体は、さほどハードルは高くありません。廃止措置のボトルネックは、これらの低レベル廃棄物の管理場所にあるといってもよいと思います。

 50年もしくは300年間という、低レベル廃棄物の管理場所を決めて、原子力発電所の廃止措置を進めることが、後世の子孫に対しても、現世で原子力の利益を得てきた我々の責任であろうと思います。

低レベル廃棄物の管理場所と方法を決めること

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