原子力なんでもQ&A(31) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2015年3月号54ページより転載

防災への備えは 十分なのでしょうか


Q:原災法とは

 1999年に茨城県東海村でJCO事故が起こり、2名の従業員の方が亡くなるとともに、半径350mの範囲の住民の方を、村長の判断で避難させました。この事故においては、原子力災害とその防災のあり方が大きな議論になりました。この結果、原子力災害特別措置法(原災法)が制定されました。福島第一原子力発電所事故では、防災がある程度は機能して、放射線災害によって亡くなる方はいなかったと世界保健機構(WHO)なども報告しています。しかし、避難が上手くできずに、病人の方など複数の方が亡くなっています。防災に対する備えが十分ではなかったことを意味しています。これらの反省を踏まえて、原災法も改正されてきています。

 さて、国際原子力機構(IAEA)も提唱しているように、原子力発電所の安全は深層防護によって確保することが必要です。深層防護は、過去のQ&A(第5回、本誌2013年1月号参照)でも簡単な説明をしていますが、安全を脅かす様々な脅威に対して、複数の独立した効果を持つ対策で対応することです。通常運転や設計基準事故に対しては、十分な余裕を持った設計や、訓練などによって対策をとります。設計基準事故を超えるような事故が起こることを想定し、様々なシナリオを考えて対策をとるだけではなく、机上訓練などを含む教育や経験値を高めるとともに、事業者としての対策を考えることが行われます。深層防護の第四層に対応します。

 深層防護の第五層は、防災です。事故の発生防止と拡大防止をしっかりと実施したとしても、放射性物質の放出が防げない場合を想定しておかねばなりません。このような場合には、避難を含めた防災対策が重要になります。深層防護の第五層としての防災の考え方をまとめたものが原災法と言ってもよいと思います。

Q:原災法はどのように考えているの

 原災法第3条には、電力会社などの原子力事業者の責務として、「原子力災害の発生の防止に関し万全の措置を講ずるとともに、原子力災害の拡大の防止及び原子力災害の復旧に関し、誠意をもって必要な措置を講ずる責務を有する。」と規定してあります。事業者は原子力災害の発生の防止と拡大の防止に対して責務を有しています。深層防護の第四層までに対しては、事業者がしっかりとした対策を行うことが必要です。

 また、国の責務としては、「原子力災害対策本部の設置、地方公共団体への必要な指示などを行う事によって、防災に関し万全の措置を講ずる事(一部抜粋)」となっています。さらに、「内閣総理大臣及び原子力規制委員会は、原子力事業者の原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策の実施が円滑に行われるように、当該原子力事業者に対し、指導し、助言し、その他適切な措置をとらなければならない(一部抜粋)。」と規定されています。加えて、第4条の二においては、「国は、大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為による原子力災害の発生も想定し、これに伴う被害の最小化を図る観点から、警備体制の強化、原子力事業所における深層防護の徹底、被害の状況に応じた対応策の整備その他原子力災害の防止に関し万全の措置を講ずる責務を有する。 」と規定されています。事業者と国が一体となって、深層防護の第四層が突破されて、放射性物質を環境中に放出するような災害が発生することを考えて、万一の事態にあたることが規定されています。

 これらの条文で重要なことは、「原子力事業所における深層防護の徹底」です。原子力事業所における、深層防護第四層までの対策だけではなく、第五層(防災)に対する対策についても、事業者はしっかりと対策を行うことが必要であると解釈できます。

Q:防災は万全ですね

 新規制基準は、世界標準からみると抜けばかりなので、かなり心配しています。あとは、実力を持っている電力会社と、数多くの原子力発電所を設計し建設してきたメーカの実力によってカバーしてもらう必要があります。前述のように、深層防護は、設計によるしっかりとした安全策と、設計条件を超えた場合のマネジメント策、さらには、放射性物質が放出される恐れがある場合においても、人の生命を守る防災に大きく分けられます。各国に規制委員会がありますが、アメリカやフランスなどの規制当局は、これらの設計、設計を超えたマネジメント策、防災のすべての深層防護の層に対して、電力会社の審査を行い、安全を確認していきます。自動的に動き出す機器や仕組みの設計だけではなく、想定外に対するマネジメント策、さらには、防災全てを評価します。これによって、原子力発電所の安全性を確認していきます。決して設計だけにこだわらず、新知見を積極的に取り入れて、マネジメント策や設計にフィードバックする改善の仕組みを重要視しています。また、事業者も独自にルールを定め、各事業者にルールを守らせることで、安全をより高めることを推進しています。

この時、重要なことは、発電所を止めて改善を行うことではありません。動かしながら改善を行うことで、より安全が高まるためです。本当に危ないのであれば動かしてはいけません。しかし、世界標準で見て十分な水準で安全が担保されているのであれば、その状況をキープしつつ、さらに改善を進めることが、本当の改善につながることを世界は知っているからです。例えば、チェルノブイリ事故の後も、同じ型の原子力発電所は、安全を担保しつつ運転を行い、さらなる改善が進められてきています。動かさずに改善を行うと、次に動かした時に、追加したシステムが相互に作用しあい、事故を引き起こす可能性もあり得ます。つまり、運転を継続しながら、安全を確認しつつ改善をしていくことが重要なのです。もちろん、長期に止まっている原子炉を再稼働する例も、世界には数多くあります。これらの場合は、新設の場合と同様に、ゆっくり、ゆっくりと確認しつつ立ち上げていく必要があります。

防災に関する改善について、例えば、スウェーデンの規制当局は、福島の事故の知見を分析し、発電所の緊急時対策を含む防災に対する大幅な見直しを要求しています。福島で防災がうまくいかなかったことを重要視しています。期限を区切って、防災対策の強化を事業者に要求し、事業者はその改善を真摯に受け入れるとともに、さらなる改善を模索しています。防災に対するストレステストなども実施を要求し、事業者は真摯に対応しています。もちろん運転しながらです。

振り返って日本ではどうでしょうか。原子力発電所は全部止まっています。防災については、内閣府が中心となり、事業者や地元自治体を含めた防災訓練を充実させてきています。しかし、世界では標準的に規制当局が審査を行う第五層としての事業者防災対策については、日本の場合は審査の対象にはなっていません。防災ストレステストもやっていません。原災法の条文で見たように、事業者の責務は、事故を起こさないこと(第三層)とその拡大を防止すること(第四層)にあるからです。第五層の防災については、国や自治体にも責務がありますが、最初に見たように、事業者も深層防護の徹底を求められていますので、事業者にも当然防災に関する責務があります。

Q:日本の課題はなんですか

課題は第四層過酷事故対策と第五層防災のインターフェースです。別の言い方をすると、第四層までを規定している原子炉等規制法と第五層を規定している原子力災害特別措置法のインターフェースです。海外では一つの法律であるのに、日本では2つの法律で見ます。安全に直結する対策ですので、改善が必須であろうと思います。福島の事故は、弱いインターフェース部分の故障と言えなくもありません。個々のシステム自体は十分強固に作られていたとしても、そのシステムをつなぐインターフェースが弱いと、そこからほころびが生じます。システムはその最も弱いところが破たんすると、ほかのところがいかに頑丈でも壊れてしまいます。是非、世界から見て、弱点である事故対策と防災のインターフェースを早く改善したいものです。

稼働しながら安全を確認し改善を行う

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