原子力発電所を安全に運転するためには、今の状態に安住していてはいけません。常に改善を進め、より安全になるように努力をし続けることが必要です。これは原子力だけではなく、全てのシステムに言えることです。今までわからなかったことがわかるようになってきます。過去には思ってもみなかった状況になることも数多くあります。その変化に対応するだけではなく、より安全性を確保するためにも常に改善をすることが必須です。安全研究は、既存のリスク低減のためと、今まで知られていなかった新しいリスクを考慮するために進められていきます。
原子力発電所を設計し建設する場合には、起動停止を含めた様々な状態において、壊れないような設計が必要になります。様々な状態には、機械が故障したり、運転員がミスしたりするような状況のほかに、地震や津波などの厳しい自然現象も考える必要があります。このような原子力発電所の安全設計は、40年以上前から行われてきました。様々なトラブルが発生した時の原子炉や燃料の状況を、コンピュータシミュレーションによって解析して、十分な余裕をもって安全が担保されることを確認しています。この解析コードや、安全を判断するための元となった実験データベースは、40年前も今も大きく変わっていません。
40年前のスーパーコンピュータは、今の携帯電話よりも性能の劣るものでした。計算機の性能ははるかに進歩し、またソフトウエアについても、新しい技術が多数開発されてきています。実験データも充実してきており、より安全な評価が可能になってきていました。これらは安全研究が進んできていることによります。
40年前の計算機は、力がなかったので、安全側に評価をすることが行われていました。安全側とは、実際に観測されると考えられるデータよりも、計算結果が、より厳しい側になるような評価のことです。例えば40年前に建設された福島第一原子力発電所は、エルセントロというアメリカカリフォルニア州で観測された大地震の振動を元に、より大きな地震動を仮定して設計がなされています。当時は地震学もあまり発達しておらず、日本で観測されている地震のデータも十分ではありませんでした。わからない時には、厳しめに考えることが重要です。このため、原子炉建屋の壁や鉄筋は、太い丈夫なものが使われています。ある意味、過度に大きな地震を想定して設計されていました。このこともあって、今回の東日本大震災でも、ほとんど地震の影響はありませんでした。安全側に設計するという思想がうまくいった一つの例です。
この安全設計の考え方を、基本的には現在も踏襲しています。地震学は発展してきているので、想定する地震の大きさも現実に近いものになってきました。また、建物や配管の設計方法も発展してきているので、より良い設計がなされてきています。一方で、安全余裕が適正化されてきたために、想定する地震よりも大規模な地震が来た時に対する余裕が少なくなってきています。
福島第一原子力発電所事故の最も重要な経験は、設計を超えた場合の対処をあらかじめ考えておくこと、つまり、想定外がありうることをあらかじめ想定しておくことです。地震に対しても同様です。設計基準地震(Ss)をいくら大きくしても、それを超える地震が来ることを否定できません。より大きな地震が来た時にどのように対処するかをあらかじめ考えておくことが重要です。重要なことは、「想定外」をなくすことです。「設計」として考えるSsに対しては、十分な余裕をもって設計を行い、Ssを超えるような「設計」を超える条件に対しても「想定」しておくことです。
この設計条件を超えるリスクに対して、例えば米国では、FLEXという対策を事業者が提案しています。米国の2カ所にセンターを作り、緊急時に用いるポンプや電源など様々な機器を備蓄するとともに、想定外に対応できるように教育と訓練を受けた対応グループを全電力で準備しました。福島事故の反省を真摯に考えた結果です。
振り返って日本はどうでしょうか。新規制基準が策定され、審査が進められています。ところが、この新規制基準は、深層防護の第四層(過酷事故対策)に対する対策を中心としたものです。それも、第四層の中でもハードウエア(機器や系統)を中心としたものです。深層防護第四層の本質であるマネジメントについては事業者任せであることは、事故前とあまり変わっていません。例えば、訓練や教育などを含むマネジメントの改善が重要なのですが、それは、事業者が自主的に行い、規制庁は、保安規定の中などでチェックするだけになっています。なぜかというと、マネジメントの優劣については、法律に明確に書きにくいことと、規制委員会にマネジメントを評価できる実力がないためです。このため、評価のしにくいマネジメントではなく、ある特定のシナリオに従った、マニュアルの有無や機器の有無などで判断しているのです。
福島第一原子力発電所事故の前までは、基準地震(Ss)に対して、十分な余裕をもって安全を確保することが行われていました。40年前にエルセントロ地震で設計されていた福島第一原子力発電所に対しても、Ssを評価しなおし、そのSsで安全が確保できることをチェックしていました。バックチェックと呼ばれています。これは、神戸・淡路大震災や、中越沖地震など、数多くの大きな地震災害を経験し、よりデータが充実してきたことにより、地震学が大きく発展してきたことも一つの理由です。研究が進み、地震のことがある程度わかってくるとともに、地震に対する対策も充実してきました。ある意味、地震に対しては、事業者も自信を持っていました。
しかし、津波に対する研究が不足していました。特に、津波が来た時の発電所の応答がどのようになるかについては、あまり深く研究されていませんでした。一部、研究によって危険性が指摘されていましたが、みな気が付いていませんでした。今は、津波の研究を進めるとともに、津波が来た後の発電所の応答や対策も充実してきています。
活断層も研究が進んできました。活断層そのものに関する研究も進んできていますが、断層が動いた時の発電所の応答についても、研究が大幅に進んできています。原子炉建屋の真下で断層が動いた時に、建屋がどのように応答するか、それによって機器がどうなるかもある程度分かってきました。過去に観測されている30cm程度の地盤のずれでは、原子炉建屋は壊れません。さらに、大きなずれでも、壊れるのは、ずれた部分が中心になります。現在設計で考えられている地震動が非常に大きいため、動いた位置以外の機器は健全で、ずれによる影響は局所的になることもわかってきました。ただ、建屋がずれることにより、建物を繋ぐ配管が大きな影響を受けます。大口径配管は大丈夫ですが、電気を伝えるケーブルなどが影響を受ける可能性があります。
このような非常に厳しい大きなずれが生じた場合にも原子炉の健全性を確保することが重要です。そのためには、ケーブルや機器などが局所的に破壊されたとしても原子炉を冷やすことができることが必要になります。これは、航空機衝突によって、原子炉建屋の一部が大きく損傷した場合に似ています。通常は、複数の緊急用系統が用意され、これらは独立性を持たせるとともに、位置分散が図られています。このため、航空機衝突による局所的な破壊に対して、アクシデントマネージメントが構築されています。つまり、断層のずれと航空機衝突は同等のマネジメントで対策が可能になると考えられます。
小さな地盤の割れ目が動くか動かないかは重要ではありません。活断層も津波や地震と同様に研究を進め、万一動いたとして対策をとることが重要なのです。
| 常に改善を行うことが必要 |
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