原子力なんでもQ&A(33) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2015年5月号50ページより転載

高濃度の雨水が 漏れていたそうですね


Q:汚染された雨水の漏えいとは?

 福島第一原子力発電所で、高濃度の汚染された雨水が海に漏れていて、それを東京電力は隠していたと報道されています。この報道を聞いていると、東京電力は事故を起こしただけではなく、まだいろいろ隠し事をしていて困ったものだ。と思ってしまうでしょう。  しかし、事実は違います。雨水が海に流れ出ていることは分かっていて、その一部は事故を起こした原子炉のすぐ近くに降った雨であることも判っていました。このため、流れ出ていく雨水の汚染をちゃんとチェックしていました。また流れ出た先の海の汚染も定期的にチェックして、問題のない値であることも確認し、公表していました。

 この雨水の濃度について、1年前には規制委員会に報告して、汚染の状況は、ほかの雨水より若干高いですが、大きな問題にはならない値であることを確認していました。1年前にはちゃんと公開していたのです。規制委員会からは、確かに若干高いので、その理由を検討するようにと言われており、今回いろいろ調べた結果、2号機の搬入口の屋根に降った雨水の影響の可能性があります、と報告したわけです。

 海に流れ出ていた量は、若干高いだけで、事故当時と比較すると、全く問題にはならないレベルです。また、影響が大きくないことを、モニタリングでしっかりみていたのです。ところが報道では、若干高いということと、搬入口屋根の上の比較的高い濃度をくっつけて、高濃度の汚染水を黙って海洋に流していた、となったわけです。健康には全く影響がないのに、危ない危ないと、風評被害を助長することになっているのが残念です。

Q:どうすればよかったのでしょうか?

 まず、原子力規制委員長が、「規制委員会は1年前から把握していて技術的には全く問題のない話である。国民の皆さんに心配をかけているが、この雨水による影響は十分無視できる量であり、今後も監視を継続するとともに、環境に影響がないようにしていくので安心していただきたい」とコメントするべきでした。ところが、実際には逆に、新聞と一緒になって信頼をおとしめる作業をしてしまいました。

 次に、東京電力は事実をきちんと説明するべきでした。しかし、規制委員会に1年間、何も報告していなかったという負い目がありました。チェックを継続していたのですが、従来と大きく変わっておらず、リスクは十分小さいことから、報告をしていませんでした。1年間報告していなかったことを謝ったのですが、それが情報を隠していたと捉えられてしまいました。規制委員会も、なぜ1年も報告しなかったかと怒ってしまいました。

 技術的にはリスクが十分に低いものです。もし毎日報告されていたとしても、従来と変わりませんということで、規制委員会も、特にコメントも何もなかったと思われます。結局、規制委員会は自分の組織を守ることが出来ましたが、汚染水をさらに長く貯めるというリスクの増大を招いてしまいました。日本国民としては非常に大きなリスクを抱えてしまったわけです。

Q:風評被害を防ぐにはどのようにすればよいですか?

 今回の事象は、今まで何回も繰り返されてきた風評被害と同じです。小さなリスクを針小棒大に騒ぐことで風評を起こします。一方で、大きなリスクは無視して、気が付いた時には手遅れになります。雨水という小さなリスクを減らし、汚染水タンクという大きなリスクを先延ばししました。騒いだ新聞は責任を取る立場にいませんが、総合的に考えれば、国民はより多くのリスクを抱えることになり、より多くの税金を投入することになったわけです。

いくつかの報道は、健康への影響は十分小さかったことは認めつつ、福島の方の気持ちを考えれば、どんな小さな流出も公表すべきであったとしています。福島の方のことを考えれば、マスコミは風評を作り出すのではなく、正しい情報を出すことを考えるべきです。いかに、風評が福島の方々を苦しめているのかを考えるべきです。風評被害をなくすことが、結果として福島の復興を早めるのです。

 なお、東京電力も国も、海洋の汚染をモニタリングしておけば十分であると考えていました。十分に無視できるほど低い汚染であることを確認して、環境への物理的な影響がないことを確認していれば、技術的にはそれで十分です。しかし、風評被害への影響を考えると、少しでも隠していたとみなされる情報の取り扱いは、気をつけないといけないことがわかります。風評被害による、日本国民へのリスク増大をどのように防ぐかを、考える必要があることが今回の課題と思います。

Q:風評をなくすには放射能の基礎知識も必要では?

今回の対策として、東電はモニターを充実させるとともに、雨水を港湾内に流す対策を取るそうです。今回大きな騒ぎにならなければとられなかった対策で、かつ物理的なリスクはほとんど低減されない対策です。この対策のために、数多くの従業員の方が被ばくをします。国民の健康影響を考えるうえで、本来は必要がない対策のために、従業員の方は、被ばくを含めた危険な作業を余儀なくされます。ある意味、風評被害対策のために、従業員の方々がリスクを負って作業されることになります。今は、風評リスクが、放射線リスクよりも重大なリスクになっているのかもしれません。

 また、隠しているという風評リスクをなくすため、モニタリングの情報は、どのような情報でも全てインターネットに載せて、誰でもがアクセスできるようにするそうです。単純に数字を羅列するだけではなく、放射能の単位である、ベクレルの意味を含め、放射能に関する基礎的な知識も一緒に書いておくことが良いでしょう。例えば、人間は平均すると、1kgあたり100ベクレル程度の放射性物質を持っています。天然に存在するカリウムなどが放射線を出すのです。60kgの体重とすると、一人当たり6000ベクレル程度の放射能を持っています。この値と比較するのが良いかもしれません。人への影響は、海や放水口の濃度をしっかりとモニタリングすることでチェックすることができます。

 トラブルや、モニタリング値の上昇は必ず起こります。このようなトラブルの時に、正しく情報が伝わり、風評が起きないようにすることが重要です。具体的には風評リスクに備えた、ストレステストを実施しておくことも重要かもしれません。この1年だけでも、様々なトラブルがありました。あらかじめ対策を考えておくことも重要でしょう。

Q:本当のリスクはどこにあるの?

 今、福島第一原子力発電所は、それなりに安定状態にあります。ただし、いつまでも安定状態にいるとは限りません。この安定状態が続くうちに、早く危険なものを取り除いてしまわなくてはなりません。雨水は優先順位が低かったのです。もっと危険なものがいっぱいあり、それを、早く安全な状態にもっていかなくてはなりません。

 例えば、4号機の使用済燃料は、優先順位が高いリスクでしたがすでに取出されて安全になっています。次は3号機の使用済燃料です。今は水が溜まっていますので安全ですが、いつ大きな地震などで、不安定な状況になるかわかりません。地震は必ず来ますので、早く対策を打つことが必要です。

 ところが、今は作業が止まってしまっています。慎重に作業をすることも必要ですが、先延ばしをすると危険な状態が長く続くだけになります。  少しのリスクをとり、早く安全にすることの方が、国民の利益になる場合もあります。技術的なリスクをどのように評価できるか。現場を中心とした、知恵と経験が重要です。東京で議論をしても何も始まりません。

東電は事実をきちんと説明することが大事

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