事故から4年が経ち、福島第一原子力発電所は安定状態になっています。先日ニュースで、1号機の格納容器内にロボットが入り、中の状況を撮影してきたことをご存じの方々も多いと思います。1号機は最も冷やすことが難しかった原子炉で、燃料は溶け落ちて、原子炉容器を突き破り、格納容器の中まで落ちてきていると考えられています。このため、格納容器の中は放射性物質がいっぱいあり、人間は30分から1時間いるだけで死んでしまうような場所です。
ロボットも1台目は溝にはまって動けなくなりましたが、2台目は慎重に操作をしたため、4日間程度動き回ることが出来ました。動き回ることができる場所について、数多くの写真を撮影することが出来たので、大成功であったと言ってもよいでしょう。しかし、最後にはカメラが放射線にやられて戻れなくなりました。
一方、これらの装置を、格納容器の外で動かしていた作業員の方々がいます。格納容器の外は、中よりも線量が低いですが、それでも発電所敷地内ではかなり高い場所です。放射線被ばくを減らすためには、遮へいを行う、距離を取る、時間を短くするという3原則があります。これらを考慮して、十分な準備を行い、安全性を確認した上で作業をされています。具体的には、実際の場所と同じ模型を工場に作り、その模型を用いて、何回も訓練を行います。
様々な状況が発生することを予想して、被ばく量を下げつつ、かつ、最大の情報を得ることが目的になります。工場ですので、何回もやり直しがききます。作業場所において、どの程度の放射線量があるかは事前に調べてあります。これらの情報をもとに、遮へい、距離、時間短縮の3原則にのっとった作業を組み上げていきます。もちろん、放射線安全だけではなく、転んだりして怪我をしないように、十分な訓練を積みます。ロボットも、何回もリハーサルをしますが、それを設置して動かす作業員の方々も、何十回もリハーサルをするのです。
放射線被ばくをしないとできない作業というのが、原子力発電所の作業以外にも世の中には多数あります。例えば、病院のレントゲン撮影や放射線治療、宇宙飛行士の方々などです。病院でレントゲン撮影を行うと、患者さんは必ず被ばくします。放射線の一種であるX線で写真を撮っているからです。しかし、その写真によって、がんをはじめとする病気を早期に発見することができます。放射線を使うことによって、大きなメリットがあることから、放射線を使っているのです。放射線は無いに越したことがありません。しかし、メリットを得るため、制御された環境下で放射線を使うことになります。この時、合理的に達成可能な最低限の放射線を使うことが推奨されています。これは、アララ(ALARA, As Low as reasonably achievable)と呼ばれます。
放射線被ばく量が多い作業者として、宇宙飛行士があります。宇宙には大量の宇宙線(放射線)が飛び交っていますが、地球上では分厚い大気にさえぎられて、その一部しか届きません。しかし、宇宙船の中は、ほとんどさえぎることが出来ないため、地球よりも多く被ばくすることになります。これも、ALARAの考え方で、宇宙飛行士でしかできない実験や作業から得られるメリットを考慮し、合理的に最低限の被ばく量(つまり滞在期間)を評価しています。半年の滞在では、150mSv程度被ばくしていると考えられています。
原子力発電所の作業員や、病院の放射線技師など、放射線を使う作業を行う方々の線量限度が決められています。電離放射線障害防止規則第4条に、放射線業務従事者の受ける実行線量が5年間で100mSvを超えず、かつ、1年間に50mSvを超えないことと規定されています。さらに、女性の場合は、3カ月に5mSvを超えないことも規定されています。5年で100mSvを単純に割り算すると、1年で20mSv, 3カ月で5mSvとなります。一度に多くの放射線を浴びる作業を女性に対しては制限しています。
これは、20万人以上に及ぶ、広島、長崎の原爆による被爆者の方々を追跡調査することなどを通じて、統計学的に見て十分な信頼性を持った知見をベースに、国際放射線防護委員会(ICRP)が推奨している値です。魚の焦げが発がん性を持っているという話を聞いたことがあると思いますが、これは、マウスによる実験結果です。一方、タバコと放射線の影響は、膨大な人間のデータを基に分析評価されたリスクです。魚の焦げなどと比較して、実際の人体への影響が統計的に把握されているという点で、タバコと放射線の影響は、比較的良く分かっています。
実際に健康影響が確実に出てくる値に対しては、かなり余裕があります。様々な研究によって管理値として決められています。遺伝的影響など、原爆から70年しか経っておらず、必ずしも知見が十分にあるとは限らないものもありますが、これらを総合的に踏まえて決められている値です。なお、だからと言って、年間20mSv以下であれば、むやみに被ばくしても良いことにはなりません。あくまでもALARAの考え方にのっとり、不要な被ばくは避けなくてはならないのです。
なお、法律で決められている5年間とか3カ月などの期間については、年度毎の管理となります。3カ月は、4〜6月、7〜9月、10〜12月、翌年1〜3月の期間ごとに集積して管理をします。1年間は、毎年4月から翌年3月までの1年間を集積します。5年間は、法律が施行された平成13年4月1日から数えます。現状では、平成23年4月1日から28年3月31日までの5年間に100mSvを超えないことが求められています。
福島第一の事故は平成23年3月11日でした。事故の後、作業員の方々は大量に被ばくされている方もいらっしゃいます。これは事故時の緊急被ばくですので、通常の管理とは異なります。事故の収束においても、敷地内の放射線量は高かったため、事故後の5年間では限度に近く、新たな作業ができない方がいっぱいいらっしゃると推定されます。来年4月からは新たな5年間の管理期間に入ります。現在は、放射線量も低くなってきており、管理された作業を推進することで、被ばくのリスクを十分にコントロールすることが重要です。例えば、具体的な作業として、今年3月に実施された、2号機原子炉内熱電対挿入作業では、作業員の方は、一日の作業で最大1.25mSvの被ばくをされています。計画値3mSvよりは十分に低く抑えられており、優秀な作業員の方が、効率よく作業されたことがわかります。被ばくを可能な限り抑えて、かつ、安定化に向けた作業を推進することが重要です。なお、この作業の情報は、東電ホームページに掲載されています。
これから、1、2、3号機の使用済燃料取り出し作業が本格化します。また、格納容器の内部にロボットを投入して情報を得る作業もどんどん進められます。これらの作業は、放射線量が高い場所での過酷な作業になります。作業員の方の安全を第一に、また、福島第一が不安定な状況にならないように、作業が続けられていくことになります。マスコミ対策などで、本来は必要のない作業をしないようにすることが重要です。重要ではない作業で、多くの従業員の方々に被ばくを強いることはALARAの考え方に反します。
東電ホームページには、新しい事務棟ができて、そこに配達される予定の給食の写真まで載っています。この様に、現場環境は改善されてきていますが、それでも、実際に作業をする場所では、半面マスクや全面マスクをしながらの非常に厳しい作業環境での作業が続きます。1月には作業員の方が高所から落下されて亡くなられる重大事故も起きました。二度とこのような重大事故を起こさないように、全員が気を引き締め、また訓練などのリハーサルを充実する対策が取られます。事故収束と安定化、さらには廃止措置を安全に推進するために、従業員の方々の安全を確保しつつ、ALARAの考え方にのっとり、作業を進める事が重要です。
| 安全を確保しALARAの考え方で作業をすること |
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