現在、日本国内の原子力発電所は一つも動いていません。一方、韓国には、23基の原子力発電所があり、半分以上はフル稼働中です。釜山のそばにあるKori、Shin-Kori発電所は6基のPWRがありますが、5基が100%出力で運転中です。全部合わせると480万kWです。google mapで調べると、日本の対馬と直線距離で75km位、福岡とは230km位です。また、台湾には6基の原子力発電所があり、フル稼働中です。台北の近くにある台湾第2発電所には2基のBWRがあり、本日現在100%で運転中です。与那国島とは150kmの距離です。福岡県や沖縄県は、原子力発電所に近いのです。
最近、日本、韓国、台湾の原子力関係者が集まり、安全を考える会議がソウルで開かれました。日本は福島第一原子力発電所での廃止措置作業について報告をしました。一方、韓国は韓国原子力水力発電が、福島事故後に実施したストレステストについての報告をし、どのような改善を進めているかを話しました。台湾電力は、安全向上策を議論するとともに、設備利用率が90%を大きく超え、100%に近くなってきている現状と、そのための改善策について話をしました。
韓国が実施したストレステストは、ヨーロッパで提唱されたストレステストに準拠した方法で、様々な厳しい条件を仮定して、それでも安全が確保されることを確認するとともに、安全確保に向けた弱点を抽出し、その弱点を克服することを目的としています。現場を良く知っている電力会社が、自ら評価し、その結果を公表するとともに、韓国の規制当局がレビューを行っています。
ストレステストは、安全がハード的に強化されることも一つの目的ですが、その本質は、発電所の人々が、自分のプラントを新しい目で見て、議論を通じて経験値を高め、継続的に勉強をしていくことが重要な視点です。規制当局も、評価を通じて発電所の理解を深め、本質的な安全を評価できる人材を多く供給していくことができるようになります。細かいリスクにとらわれることなく、総合的なリスクを俯瞰することで、はじめてストレステストが進められます。
このような経験を、事業者の現場、規制の現場が繰り返し実施することによって、いざというときに対応への経験値を高めていく事になります。75kmしか離れていないと言いましたが、このように真摯に安全を考えている事業者と規制がいる韓国については、十分に信頼しても良いと思います。韓国は、自国で設計標準化した原子炉を、アラブ首長国連邦(UAE)に建設中です。安全性を高め、実証された技術を用いて、世界の平和と産業振興に寄与しています。安全性に対する正しいアプローチを続けることによって、インフラ輸出の面でも世界を先導していくことと思います。
台湾の第1第2発電所は、台北の比較的近隣にあり、BWRが2基づつ運転されています。第3発電所は台湾島の最南端にあり2基のPWRが運転されています。この合計6基の原子力発電所が、フル稼働しています。米国やフィンランドなどの先進国に学び、リスクの考え方を積極的に安全性向上に用いていることで、設備利用率を95%と格段に高めています。これはフィンランドとほぼ同じ程度です。PWRとBWRという異なる炉型の発電所を持ちながら、いずれも95%を超える利用率です。90%を超えたのは今から10年以上前です。この10年以上にわたり大きな事故やトラブルもなく、運転が継続されています。運転しながらメンテナンスをすることが、発電所をより安全にしているのです。
一方、日本では、ストレステストは中途半端なもので、かつ、弱点を見つけるという目的を忘れ、単に再稼働のためのツールとして使われてしまいました。設備利用率も80%以下で低迷し、トラブルだらけでした。小さなトラブルであれば、止めずに直した方が安全なのですが、日本では、止めると安全であるという間違った認識が独り歩きし、とにかく止めることが良いという対策が取られてしまった結果が、台湾との大きな違いです。台湾や韓国に学び、より安全性の高い発電所にしていただきたいと強く思います。
中国は、世界で最も原子力開発が盛んです。今は22基が動いていますが、あちこちで建設が進んでおり、年4基程度が運転を開始しています。計画中を合わせると100基を超え、世界一の原子力大国になります。現在の原子力発電所は、いずれも東シナ海の海岸線にあります。中国は、カナダ、フランス、ロシア、米国などから発電所を導入しましたので、様々な炉型があります。基本はPWRでBWRはありません。米国のウエスチングハウス社が開発したAP-1000と呼ばれるPWRが有名です。アメリカでも建設中ですが、最初に運転開始をするのは、中国の三門1号機となる予定です。三門は海岸線の非常に広い土地を有しており、AP-1000を10基以上建設することができます。
6年前に建設中の三門を訪ねたことがあります。非常に広い敷地にびっくりします。中国や韓国の企業が建設を請け負っており、ほとんど日本の企業がいないことも残念でした。敷地高さがあまり高くないので、津波は大丈夫かと聞いたところ、沖合に島がいっぱいあり、減衰が大きいので大丈夫だと言っていました。当時はスマトラ津波の後で、引き波による冷却不能がトピックになっていました。今は、もっと充実した津波対策も行われていると思います。なお、三門発電所からの距離は、那覇まで700km、鹿児島まで800km程度です。
中国ではAP-1000をバージョンアップした、CAP-1000/CAP-1400という原子炉の設計がされています。発電出力140万kW以上の出力を持つPWRです。出力増に向けて、中国全土の研究所や大学で研究が進められ、安全性を損なうことなく、出力増大が可能であるという結論が得られたそうです。なお、このCAP-1400の最初のプラントは、山東半島の先端にある石島湾発電所に作られる予定で、先日建設が開始されました。
中国には、CAP-1400の他に、Hualong One(華龍1号)という標準型の3ループPWRがあります。これは、CPR-1000という中国の標準型PWRをベースに改良を加えた原子炉で、福建省などにおいて、4基の建設が始まっています。アルゼンチンへの輸出も動き出しており、輸出プラントとして中国の戦略に組み込まれています。
なお、福島第一事故の後、中国は1年間、原子力開発をストップさせました。ストレステストなど安全性に対する詳細な評価を進めた結果、現在は、さらなる原子力推進を図っています。ただし、発電所建設は、基本的に海岸沿いに限定し、内陸部の発電所建設は凍結されたままです。これは、地震などの問題もありますが、福島第一で汚染水の問題が大きな課題になったことも一因と聞いています。万一、内陸部で汚染水が川を汚すと、下流の町は大変な被害を受けることが予想されるからであるとの話もあります。
中国は、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の動きでもわかるように、インフラを輸出することで発展する戦略をとっています。また、中国の大学では、原子力関連の学科がこの10年で大量に新設されました。各大学には数多くの実験装置が導入され、基礎的な実験をはじめとして、大量の学生が原子力に関する研究を進めています。人材育成の面でも、中国の技術力向上は目を見張るものがあります。
アジア地域の原子力開発は、日本が先行し、韓国、台湾、中国が続いてきました。日本は原子力開発については戦略を持たず、メーカーの自由競争に任せていました。福島第一の事故と、それに引き続く間違った原子力規制、さらにはアメリカのシェールガス革命が、日本の原子力産業にとどめを刺そうとしています。日本が後ろ向きの議論をしている間に、韓国、中国は世界戦略を見据えた原子力開発を進めています。安全技術の向上、製造技術の向上、投資能力の向上の3つが合わさると、鬼に金棒です。日本は過去の栄光にアグラを組んでいるだけで、戦わずして負けている気もします。日本が中国製の原子炉を輸入する日は近いと感ずるこの頃です。
| 韓国、中国が世界戦略見据え開発進展中 |
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