7月に福島第一原子力発電所の汚染水対策が一段落して、一つの大きな山場を越えます。福島第一には様々な放射性物質が、十分に管理できていない形で存在しています。これらの放射性物質を、人が容易に管理できる形にすることが現在行われている廃止措置です。安定的に管理できれば、人や環境に影響を与えないように制御することができますので、安全です。また、人がちゃんと制御できていることを、モニタリングによって確認します。人が制御し、またモニタリングでチェックしているということは安心にも繋がります。
福島第一の制御が容易ではない放射性物質のうち、我々国民に直接的な放射線被害をもたらす可能性があるものは様々ありますが、最もリスクが高いものが、格納容器の中に溶け落ちた燃料です。今は水をかけ続けて、それなりの制御ができています。また、温度や空気サンプルをモニタリングして、制御できていることを確認しています。これから時間をかけて、燃料を管理し安全に制御していく作業(いわゆるデブリ取り出し)を進めて行きます。
次にリスクが高いのが、海側のトレンチと呼ばれるトンネル内部に溜まった高濃度汚染水です。事故直後に、ジャジャ漏れで海に流れていたのを覚えていらっしゃる方もいると思いますが、なんとか海への漏れ出しを止めました。今は流れださないように水位を制御し、かつ、地下水や海水をモニタリングして、流れ出ていないことを確認しています。しかし、大津波などが発生すれば、この汚染水は海に持っていかれてしまいます。このトレンチを埋めて、中に溜まっている高濃度汚染水を処理する作業が進んでいます。かなりのトンネルは既に埋められていて、最後の立坑も6月中には埋められる予定です。
あまり新聞は騒ぎませんが、実は、このトレンチを埋めることで、大きなリスク低減が達成されます。なお、過去に高濃度汚染水がいっぱい入っていたことは事実ですので、地下水や海水のモニタリングは継続的に行われていく予定です。
その次にリスクが高いのは、1〜3号機の使用済燃料プールにある使用済燃料です。使用済になってから時間が経っているので、発熱量はさほど大きくありませんが、管理できなくなってしまうと、やはり放射性物質の大量放出の危険性があります。しかし、発熱量が少ないので、対処するための時間があり、大きな問題にはならないでしょう。万一、大地震などで一時的に管理ができなくなってしまったとしても、コンクリート注入車などを活用して、水をかけることができれば安全を保つことができます。放射性物質の量は多いのですが、管理のしやすさからいえば、比較的安全です。なお、昨年12月に、最もリスクの高かった4号機の使用済燃料は全部取出されて、共用プールで冷やされています。共用プールは、東日本大震災でもビクともしませんでしたし、山側にあるので、水を入れることも簡単なので、十分に制御されていると言ってよいと思います。
その次にリスクの高いものは、原子炉建屋やタービン建屋にある高濃度汚染水です。海より離れていますので、海のすぐそばのトレンチよりはリスクが低いですが、それでも、超大津波などで、海に持っていかれる可能性は否定できません。今は、地下水に流れ出さないように、地下水位よりも低い水位で制御し続けています。また、水位制御のために汲み上げた水は、サリーやアルプスなどの処理設備を通して、リスクのほとんどない水にしています。
そして、今回5月末に処理が終了したのが、このタービン建屋などの高濃度汚染水を過去に汲み上げて、サリーでセシウムだけを除去し貯めてあったタンク内の汚染水です。一時は40万トンを近くの汚染水がありましたが、アルプスなどで処理を進めることができたため、5月末にほぼなくなりました。実際には、タンクの底に抜けきれない汚染水がちょっとづつ溜まっていますので、ゼロではありませんが、タンクから出てこないくらいですので、流れ出るリスクはほとんどありません。今後、タンクを洗浄したり、解体する作業を行いながら、制御しつつ処理を進めるので、リスクは十分に小さくなったと言ってよいでしょう。
見てきたように、福島第一の放射性物質は、安全に管理されています。ほぼ人が制御できています。また、トラブルがあっても、人や環境に影響を与えるには、多くの時間がかかることから、まず物理的に影響が出ることはありません。いろいろなトラブルはあると思いますが、万が一のためのバックアップのポンプなども準備されていますし、また、放射性物質のモニタリングが継続的になされています。よっぽど大きな津波や地震が来たり、建屋が崩壊するなどの大きなトラブルがない限り、福島第一の放射性物質で人や環境が、これ以上の被害を受けることはありません。7月末にトレンチの埋め立てが完了すれば、はっきりと言い切ることができます。物理的には十分に制御されています。
これからのリスクは、いわゆる風評被害になります。物理的に全く影響がないとしても、感覚的に怖いと感じてしまうため、制御されている大きなリスクではなく、影響がほとんどない小さなリスクであっても、過度に反応してしまいます。物理的に影響がないのに対して、大きなリスクと感じてしまうのは、ある意味人間の持っている自己防衛本能かもしれません。
震災直後に、震災で出たがれきを、日本国内の様々な場所に運んで処理する作業を行いました。環境中に自然に存在する放射性物質と比べて、安全性を確認したがれきを持ち込むという、十分に管理された状況でした。しかし、被災地のがれきを持ち込むということだけで、放射線に対する恐怖に恐れおののいた多数の方々がいたことを覚えていらっしゃる方も多いと思います。殺人であるとまで言われた方もいました。がれき処理は無事に終了し、被災地の復興に大きく役立ちました。この処理による放射性物質によって被害を受けた方は、いらっしゃいません。最近では、台湾が日本製食品の輸入を止めるというニュースがありました。被災地のがれきと同じ構図ですね。
風評は、物理的に正しくないにもかかわらず、感覚的に恐怖が増幅されてしまうことで発生します。恐怖を増幅させるのは、マスコミやインターネットなどの情報伝達システムです。情報伝達システムが、意図的に角度の付いた記事を書くことによって、恐怖を増大させることもあります。そのままでは、何もない情報でも、使い方によっては、利益につながることもあります。一部の方々の利益になるということは、他の方々にとっては損失になります。
本質である恐怖の増幅をなくすことは困難だと思います。風評に対する解決策はあまり多くありません。恐怖の元である放射性物質の管理を徹底して、揚げ足を取られないようにすることが王道ですが、トラブルをゼロにすることはできませんのでなかなか大変です。大きなリスク源は、7月末で管理された状態となることを、声を大きくして宣伝することも重要かと思います。
そのうえで、これからのトラブルは、農業や漁業などを含む国民生活には影響がない範囲で制御できることをご理解いただくことです。トラブルをゼロにはできませんが、トラブルがあった場合にどのように対処するかをあらかじめ検討しておき、可能な限り風評を低減するための努力が必要になります。風評に対するアクシデントマネジメントのようなものです。
繰り返しますが、福島第一の放射性物質のリスクは、十分に制御された状況です。微量な放射性物質の放出など、トラブルは必ずありますが、制御されているため、国民への物理的被害はありません。これからは、風評被害をいかに低減するかの研究や対策が必須です。
| 放射性物質のリスクは十分に制御されている |
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