東日本大震災以降、頻繁に地震があります。また、あちこちの火山も噴火を繰り返しています。思いもよらない自然災害が起きています。原子力発電所の安全を確保するためには、このような厳しい自然災害に対する弱点を見出し、対策を進めることが重要です。その一つの方法がストレステストです。厳しい自然災害を考え対策をとります。どんどん大きな災害にしていくことで、非常に困難な状況になった場合の対応を、あらかじめ検討し、経験値を積んでおくためです。また、思いもよらない弱点を見出すことができるかもしれません。
ストレステストで重要なことは、実力値で評価することです。機器の信頼性は、原子力クラスの信頼性である必要はありません。福島第一でも車のバッテリを使った対応が行われましたが、この車のバッテリは決して原子力用ではありません。規制に従って、変な想定をしてしまうと、イザという時に、ものすごく使いにくい機器を準備させられることがあります。ですので、ストレステストでは、そのようなものは使わずに、一般的に用いられる汎用性の高い機器を準備して置くことが重要になります。
原子力発電所の敷地内には、複数の地面の割れが存在することがあります。これらは、普通は全く動きませんが、大きな地震などによって、動く可能性は非常に小さいですが、ゼロではありません。また、割れのないところに、新たに割れが入って動く可能性もさらに小さくなりますが、ゼロではありません。このように、地震に伴う地盤の割れや隆起などは、今まではあまり考えられていなかった自然現象です。
さて、断層変位に対するストレステストでは、この地盤の割れや隆起が発生したことを仮定して、その対策を検討していきます。原子力安全推進協会が、断層変位に対する評価手法を検討した結果を平成25年にまとめています。報告書は日本語と英語で、同協会のホームページに公開されています。
まず、地震を起こす活断層からの距離や地震の規模の関数として、ある特定の場所における断層が変位する確率を求めることができます。報告書の例を参照すると、ある活動性の高い活断層がモーメントマグニチュード6.5の地震を発生させたとすると、その活断層から250mの距離の地点が、30cm変位する確率は30万年に1回と計算されています。100cm変位する確率は100万年に1回と、変位が大きくになるにつれてどんどん確率は減っていきます。
さて、それでは、まず起こりえませんが、30cm変位したと考えましょう。ストレステストですから、エイヤと地面が動いた場合を考えます。原子力発電所は、普通の建物とは違い、ものすごく太い鉄筋を大量に用いた鉄筋コンクリートでできています。元々、大きな地震に十分な余裕で耐えられるように作ってあります。このため、30cm位変位しても、大きく壊れることはありません。実際に、数値シミュレーションを実施してみると、持ち上がった場所にもよりますが、基礎鉄筋コンクリートは壊れませんでした。また、いくつかの壁には大きな力が加わっている場所がありますが、壊れるまでには至っていません。
基礎は壊れなくても、大きな揺れが、配管や機器に加わります。また、建屋が30cm変位するので、建屋と建屋の間にずれが生じる可能性があります。これらの揺れやずれに対する評価も実施されています。元々、原子力発電所では、非常に大きな地震を仮定した設計がなされているので、30cm位の変位で発生する揺れは、設計で考えられている地震動よりも小さなものになります。このため、揺れによって壊れることはないことが確認されています。一方、ずれによる影響も評価されています。その結果、重要な機器や配管で壊れる物はないことも確認されています。しかし、小さな配管は切断されてしまいますので、計装やケーブルなどの影響を考えておくことが重要です。
以上のような結果、30cm程度の変位では、原子力発電所は壊れず、安全は十分に確保されることが確認されました。一方、弱点として、小口径の配管などで、特に電源ケーブルや信号ケーブルなどが切断される可能性を詳細に評価することの重要性が確認されました。なお、万一、ケーブルが切断されても、新規制基準では、別の方法で電源を供給することが要求されていますので、安全は確保されます。
ストレステストですから、もっと厳しい条件も考えます。30cm以上変位したとしましょう。残念ながら、原子力安全推進協会の報告書には30cm以上の計算結果はありません。しかし、この場合は、基礎鉄筋コンクリートが壊れることが考えられます。また、壁の一部も壊れますが、その変位に沿った部分だけが大きく壊れることが考えられます。つまり、原子力発電所の一部が全く使えなくなる状況に陥ることが考えられます。ところが、変位に沿った部分以外は、ほぼダメージはありません。これは、30cmの場合と同様に、変位による揺れの大きさは、設計で考えられている地震動よりも小さくなると考えられるためです。
つまり、原子力発電所の一部が大きく損傷しますが、他の部分は耐震設計がしっかりしているものが残る可能性が考えられます。また、大口径配管については、比較的大きな変位まで持つことが知られています。近年、耐震設計をあまりに厳しくやりすぎていて、サポートの数を増やしているような配管は、逆に壊れてしまうことが考えられます。配管本来の持つ柔軟性を活かしたサポートが重要になることを示唆しています。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という古人の知恵を、しっかり反省することも重要でしょう。
さて、一部が壊れたような状況においては、アクシデントマネジメントによる対応が重要です。残ったシステムによって、炉心の冷却を継続することが重要になります。福島第一の事故の後、冷却システムの多様化が図られ、位置分散の考え方も徹底されています。新型の原子炉である、APWRやEPRなどにおいては、緊急時冷却のために独立の4系統が設けられています。これは、9.11のような航空機衝突事故を考えた時に、原子力発電所の一部が大きく損傷することを想定しているからです。位置的に分散されたシステムであれば、この様な一部が大規模に損傷した場合でも、残るシステムがあります。つまり、航空機衝突のような大規模損壊時でも、残るシステムでの炉心冷却が継続され安全性が確保できるような設計になっています。新規制基準においても、大規模損壊を仮定した対応をとることが決められています。
さて、大きな変位が生じた場合は、新規制基準で考えられている大規模損壊と同じになることがわかりました。机上シミュレーションでは、必ず残るシステムがありますので、それらを用いて、炉心の冷却が継続できると考えられます。場合によっては、消防車などを用いた冷却水供給を行っていきます。
以上をまとめると、断層が大きくずれることを対象とするストレステストを実施した結果、30cm程度の変位では、弱点として小口径配管が抽出されました。炉心の冷却に与える影響は小さいと考えられますが、より冷却性能を充実するために、電源ケーブルや制御ケーブルのチェックを行うことが重要と考えます。また、より大きな変位では、一部の大規模損壊が発生すると予想されます。しかしながら、変位箇所以外では、大きなダメージを受けることがないと考えられるため、残ったシステムを用いて炉心の冷却を継続するアクシデントマネジメントを採る必要があります。現在の新規制基準で想定されている、大規模損壊と同様な事象になることから、大規模損壊を考慮している場合は、安全性が担保できる可能性があります。大規模損壊への対策を充実することが重要と考えられます。
ストレステストを適切に使うことで、安全性をより充実させることが可能になります。ここでは、断層のずれを考えましたが、もっと厳しい様々な自然現象を想定してストレステストを行うことが重要と考えています。
| 機器は汎用性の高いものを準備しておくことが重要 |
|---|