8月11日に、九州電力川内原子力発電所が臨界に達し、核分裂を継続的に起こす状態になりました。臨界状態は、言うなれば、種火に火が付いた状態です。あとは、薪をくべて、少しずつ大きな火にしていくとともに、お湯を沸かしてタービンを回し、ちゃんと発電ができることを順番に確認していきます。これには、あと1カ月程度かかりますが、機械やシステムがちゃんと動くことを確認した後、営業運転に入ります。九州電力は、今までも安全に留意し、安定的な電気を供給するために貢献してきました。これからも、より改善に努めて、安全で安定な電気を供給するべく頑張ってもらいたいと思います。
福島第一原子力発電所では想定外の津波で、想定外の全電源喪失を引き起こし、想定外の全冷却喪失が制御できずに、大きな事故を引き起こしてしまいました。想定外をなくさなくてはなりません。このため、新規制基準では、可能な限り想定外のイベントを想定して対策を立てています。福島第一のように全ての電源がなくなった場合などはもちろんのこと、今まで考えていなかった様々なイベントを想定して、対策を立てました。今まで想定外であったイベントを想定してきているという意味では、ある程度リスクを下げることに効果があったと思います。
国民の目に見えてしまった、原子力発電所のリスクのうち、大規模な自然災害によるリスクは、可能な限り下げることを行っています。今までは十分に発生確率が低く制御されているので、考慮していなかったイベントや、今まで考えもしなかったイベントなどを考慮して対策をとりました。基本的には、重要な機器については、これでもかという位に冗長性を高めるとともに、消防車や電源車など、通常は使わないけども、いざというときに使うことができるバックアップ用のモバイル機器などを大量に準備しました。これらによって、めったに起こらないイベントに対しても安全を確保することが出来ました。想定の枠をかなり厳しいところまで広げたので、まぁ、リスクはかなり減ったと考えても良いと、規制委員会は思っているようです。
安全確保活動は、モグラたたきにもたとえられます。残念ながら、原子力規制委員会は、目に見えるリスク(モグラ)に対して、モグラをたたいたにすぎません。目に見えるモグラはもういませんよと国民にアピールしているだけです。2つの大きな間違いをしています。目に見えないモグラに対する対策を要求していないことと、一部のモグラのみをたたいたため別のモグラが出てきやすくなっていることです。
福島第一原子力発電所の反省で最も重要なことは何でしょうか? それは、想定外がありうることを想定することです。いままで想定外であったイベントを想定しても、単に想定の枠を広げただけにすぎません。どこまで行っても枠の外(想定外)はあるのです。枠の外に対する対策が為されなくてはなりません。
残念ながら、規制委員会は枠の外については想定していないとの一言で片づけています。では、枠の外は誰が対策をしているのでしょうか? 実は、原子力事業者が本気になって対策をしています。日本原子力学会や日本機械学会などの学術団体では、枠の外に対する対策の重要性を強く認識し、事業者に対して、現場での訓練や教育の充実を強く働きかけています。
いくらシナリオを想定しても、その想定通りに物事が動くことはありません。イザというときに、現場の人々が、情報を収集し判断し対策を行う以外に解はないのです。現場の実力を上げておくことが、想定外(枠の外)に対する唯一無二の対策です。本店、社長、規制庁などは、全く役に立たないことが福島第一の時の例で良く分かったと思います。では、その対策は立てられているのでしょうか? また、立てたとして、その検証はできているのでしょうか?
組織を作ったとか、総合訓練をしたとか、そんなものは検証でも何でもなく自己満足です。総合訓練は、やらないよりはやった方が遥かに良いです。しかし、組織を作るのは必ずしも良い方向にはいきません。日本人は往々にして、組織を作ればそれで物事が動くと思い込んでしまいます。例えば、規制庁を作ったことで満足し、何も評価をしていないので良く分かるかと思います。
日本原子力学会のシビアアクシデントマネジメント標準では、運転員や保守員といった現場の方々に、机上訓練を行うことを強く推奨しています。ゲームのような形で、様々な過酷な条件に対して、原子炉を安全に止めるための様々な活動を模擬的に実施します。その中で、必要なハードウエアやソフトウエアを考えたり、何がどこに置いてあるかを勉強したり、バルブやスプレーの起動がどのように影響するかを考えていくことになります。現場の危機対応能力、経験を上げていくことが重要という強い認識です。複数の電力事業者で実施され、実力向上を進めていると聞いています。
前回記載しましたが、日本機械学会で実施しているストレステストなども、現場の方々の能力アップに強く寄与します。今は事故直後なので、現場のモーティベーションも高いと思いますが、10年後も、現場の能力を継続的に高めていくことが重要だと思います。
さて、一つのモグラを一生懸命たたくと別のモグラが出てきやすくなるという話です。規制委員会の活動は、原子力発電所の安全性を高めることではなく、国民に見えてしまった原子力発電所のリスクを、下げる努力をしている形を見せることが目的に思えます。このため、思いついたモグラばかりをたたいているだけです。今まで考えていたモグラについては、ほぼそのままの対策を踏襲し、土の中の奥深くにいるモグラに対して、穴を掘ってコンクリートで固めてしまいました。
浅いところにいて、100年に一回くらい出てくるモグラに対しては、今までと同じ対策をとっていて、ある意味、事業者任せです。一方、深くにいて、100万年に一回くらい出てくるモグラに対しても、100年に一回のモグラと同じレベルの対策を要求してしまいました。100年に一回のモグラと100万年に一回のモグラでは、当然重要度が違います。規制側のリソースも限られていますので、100年に一回のモグラに対する規制が甘くなるのは避けられません。深い所がコンクリートで固まったので、浅いところのモグラは出てきやすくなっているかもしれません。
100万年に一回のイベントへのリスクは下がりましたが、100年に一回のイベントのリスクは、下手をすると上がっているかもしれません。どちらも同じモグラに見えるので、国民へのアピールとしては分かりやすいかもしれません。しかし、本質がどちらかは、皆さんの方が良く分かっていると思います。規制が間違っていますので、100年に一回のモグラに対して、対策をきちっととるのは、事業者の役目です。ここは、事業者の踏ん張りどころです。
事業者は、規制によってリスクが増えたかもしれない発電所を、しっかりと安全に保つべく、努力を進めているので、皆さんも安心してよいと思います。本来は、リスクの概念を活用して、リスクを用いた保守管理を進める必要があります。アメリカでは、TMI事故の10年後に、リスクを用いた保守管理が始まりました。日本でも、そろそろ、リスクを用いた管理を事業者が中心となってまとめる時期に来ていると思います。なお、リスクを用いた管理であり、「確率論的リスク評価(PRA)」ではないことに注意してください。PRAは単なるツールで、使うのは人間です。現場の人が使えないツールなど意味がありません。現場がリスクを知ることができるという意味でも、現場の机上訓練は非常に有効です。
規制が事業者のとりこになったと国会事故調は指摘しました。今、規制は事業者や国民から孤立して、規制庁の安全に向けて努力を進めています。国民の安全を担保するのは、国でも規制庁でもなく、事業者の努力です。間違った規制のために仕事が増えましたが、そこは、事業者がどっしりと踏ん張って、世界一の安全を守り、国民のために頑張ってほしいです。
| 想定外対策は現場の実力を上げておくことが重要 |
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