原子力なんでもQ&A(41) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2016年1月号52ページより転載

日本における保全とは


原子炉主任技術者という国家資格があります。日本においては、原子炉を運転する際には、原子炉主任技術者が保安の監督を行うことが、原子炉等規制法に定められており、合格率も10%という非常に狭き門です。昨年3月に第57回の試験が行われましたが、その中に「信頼性重視保全」について簡潔に述べよという問題が出されています。当然、原子力規制委員会の5人の委員の皆さんは、よくご存じのはずです。

Q:先進国との保全方法の違いは

信頼性重視保全とは、10万点以上ある原子力プラントシステムの中の様々な機器を、リスクに応じて最適な保全を進めるものです。航空機産業で導入され、原子力分野でも先進国ではどんどん導入されてきています。例えば、アメリカでは、1980年代にメンテナンスルールとしてNRCがリスクに応じた保全を導入し、その後も改善が進められています。ほとんどの機器は、事後保全として、故障したら取り換えるという保全をとります。重要な機器になればなるほど、状態監視保全(CBM)と言って機器の状態をモニターしながら、調子が悪くなると取り換えるという方式をとります。モニターの頻度は、機器のリスクなどに応じて決まりますが、例えばアメリカのハッチ発電所では、重要な機器は全てCBMで保全を進めるとともに、寿命から時間計画保全(TBM)を併用しています。

さて、2007年頃に、日本でも信頼性重視保全を取り入れ、保全間隔を最適化しようという動きがありました。日本では、毎年1回(13月毎)、必ず原子炉を止めて、定期検査を行う必要があるのですが、そのような法律がある国は日本だけでした。世界では、18か月や24か月に1回検査を行っていました。重要な機器は、頻繁にモニターしているとともに、故障モードを考えると、4年程度は検査なしに動くからです。逆に、ちゃんと動いている機器を毎年分解して検査をすると、そちらの方が故障の確率が高くなります。

過去30年の、機器故障率などのデータベースを元に検査頻度を科学的に最適化することが行われてきました。検査頻度を最適化することで、より安全性を高めることができるためです。本来は、CBMを中心に検査を導入するのが世界の趨勢だったのですが、当時の日本は、定期検査の呪縛に縛られていたこともあり、ほとんどの機器に、TBMを導入してしまいました。当時の保安院が、新しい優れた技術の導入に臆病であったことなどによります。結果として、海外とは全く異なる、非科学的な保全方法が大量に導入されました。

それでも、軽水炉にとっては、保全プログラムを導入することと引き換えに、13か月という非科学的な定期検査間隔を、欧米並みの最適な検査間隔にできるというメリットがありました。毎年点検することによって、検査による故障のリスクを導入するよりも、2年に1回点検する方が、科学的に安全であるからです。保全プログラムを導入することが目的化されたため、検査漬けの現状を追認する形で、事後保全が良い機器も、時間計画保全に格上げされてしまいました。それでも、定期検査間隔が延びれば良いという判断です。現在も、事業者は規制の言うなりにハードウエアを増強して、保全の観点からは、大幅にリスクを増大させています。再稼働が目的にされたため、安全性を犠牲にしても、規制の言うなりになっているのです。

福島第一の事故が起こり、定期検査間隔を科学的に決めることで、発電所の安全性を高めるという作業は頓挫しました。安全性に関する信頼が根本から覆されてしまいましたので、まずは、現状の安全性の見直しが進められたことは、当然のことです。しかし、保全プログラムだけは残ってしまいました。本当であれば、保全プログラムをより安全性の高いものにするため、とりあえず時間計画保全にした重要度がさほど高くない機器を事後保全に変更して行くことが必要です。海外のように、どしどし状態監視保全を導入し、重要な機器ほど、状態監視保全に変更して安全性を高めていく作業も必要です。しかし、その作業は後回しにされ、再稼働が目的となりました。機器の数が大量にあるため、10年目の時間計画保全を迎える機器が、毎年大量に存在します。本来変えなくても良いものを、交換したり、メンテをしなくてはならない状況になっています。

定期検査間隔を延ばして安全性を高めるために、中途半端な形で導入された保全プログラムが発電所を縛っている状況です。軽水炉は、1基運転すると大まかに言って、年間1000億円電気代で儲かります。例えば1000億円かけて対策しても1年運転すれば取り戻せます。このため、規制庁の言いなりで、ゴテゴテの対策をしているわけです。保全のリスクが高まっていますが、法律にはほとんど何も書かれていないので、規制庁は知らないふりをしているだけです。規制庁は国民のためではなく、組織維持のために、法律を極端に安全側に解釈しているのです。

保全プログラムを導入する時に、電気事業法の改正も行われました。発電する原子力プラントに対して一律に保全プログラムが導入されました。もんじゅは高速増殖炉原型炉で、ある意味、研究開発の意味を大きくもつ原子炉ですが、発電するので、軽水炉と同様に保全プログラムが導入されました。軽水炉が、定期検査間隔最適化を行いたいため、本来の保全プログラムとは異なる、時間計画保全中心の中途半端なプログラムを導入したことから、もんじゅも、同様のプログラムを導入せざるを得ませんでした。軽水炉は年間1000億円儲かりますが、もんじゅは国の研究プラントですから、儲けを前提としていません。国民の税金で運営されていますので、保全プログラム導入にお金をかけることができません。

また、元々3か月に1回程度の頻度で起動停止を行いますので、定期検査間隔の最適化も全く関係ありません。つまり、単純に、余計な作業が増えただけです。それでも、保全が最適化され、より安全なプラントになるのであればよいのですが、繰り返しになりますが、欧米で導入された本来の主旨とは全く異なる、中途半端な保全プログラムを導入させられてしまいました。つまり、仕事が増えただけで、かつ、その仕事も安全とはほとんど関係ないものです。保全プログラムを適切に導入すれば、発電所の安全がより高まります。しかし、日本のように中途半端に導入すると、それは、単純に無意味な仕事が増大し、リスクを導入します。

Q:もんじゅが怒られた原因は

 今回、もんじゅが規制から怒られました。物理的な安全とは全く異なります。無理やり、軽水炉と同じ間違った保全プログラムを導入させ、その保全プログラムが守れないことを元に、組織の問題にすり替えたのです。物理的な安全は全く問題ありません。さて、これは全く恥ずかしい話です。元々、隅に穴の開いた重箱をもんじゅに無理やり持たせたうえで、重箱の隅をつつきまくって、穴を開け、もんじゅをつぶしているだけです。福島第一の事故が、規制がリスクを考えずに、重箱の隅をつつくことに一生懸命になったため、重箱の真ん中に空いている大きな穴を見過ごしたのと同じ構造です。全く反省していません。

規制委員は規制庁のやっていることの本質を見ていないのだと思います。規制庁は、保全の問題を組織の問題にすり替えました。組織の問題としては、規制委員のコメントは正しいものです。しかし、その前の重箱の隅をつついている規制の方法が、リスクを大幅に高めていることにも気が付いてもらわなくてはなりません。本質を見ず、規制庁の組織維持のための問題すり替えだけを議論しているのは、おそらく本質が本当にわかっていないためだと思います。規制委員は現場を知りません。ますます、現場は疲弊し、日本の原子力は危険な方向にどんどん進んでいます。

様々な事故調が指摘しているように、リスクを考えない規制が福島事故の間接要因です。今の規制は、事故前よりももっとリスクを考えない規制になってしまっています。組織の安全のためには、原子力プラントのリスクが増大しても構わないという規制をしています。リスクを考える規制にしないと、また、事故が起こるかもしれません。

リスクを考慮した規制の適用が重要

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