原子力なんでもQ&A(43) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2016年3月号52ページより転載

もんじゅはなぜ 必要なのですか


Q:エネルギー確保とは

 今の世界経済は、いまだにアメリカを中心に回っています。世界経済ではGDPが増大し続けることを前提として、その増大分をお金に換える形で金融が成り立っています。実際にモノづくりによる物理的な資産の付加価値増大よりも金融による仮想的な資産の付加価値増大の方が、遥かに大きくなってきてしまっています。また、物理的な付加価値増大にともない、エネルギー消費量は増加を続けてきました。日本だけを見てみると、エネルギー消費量は、人口増加の停滞と合わせて、飽和状態から減少傾向にあります。仮想的資産の増大は継続すると思われますが、物理的資産の増大は、少しずつ減少していく状況になってきました。

一方で、世界に目を向けると、人類の人口増大は留まるところを知りません。また、インドや中国など、大幅な金融資産の増大をサポートするために、エネルギー消費量の増大傾向も留まるところを知りません。統計量の精度の問題はありますが、中国の電力消費量は、毎年3000億kW時ずつ増えています。日本の年間電力消費量の約3分の1に相当します。つまり、3年で日本一国分のエネルギー消費量が増えるのです。これらがほぼすべて化石燃料、特に石炭によって賄われています。

現在の中国の一人当たりのエネルギー消費量は、日本の30%程度しかありません。つまり、日本と同じだけ中国が発展すると、人口を10倍とすれば、単純に考えて、今後、日本が7個できる勘定になります。このため、中国では、エネルギーや資源の確保に大きな力を注いでいます。日本は、良くも悪くも島国で、ガラパゴス化が進みやすい環境にあります。しかし、日本だけを考えている時代はすでに終わりました。

Q:世界を救うもんじゅ

「もんじゅ」の名前は、3人寄れば文殊の知恵と言われる文殊菩薩からきています。敦賀市には、すでに廃止措置中ですが、普賢菩薩から命名された「ふげん」という新型転換炉もありました。いずれも、核燃料サイクルで出てくるプルトニウムを燃料として電気を作ることを目的とした原子炉でした。

「ふげん」も原型炉で、大型化した新型転換炉を、青森県の大間に建設する計画がありました。青森県には、再処理工場があり、そこで得られたプルトニウムを燃やすためです。しかし、「ふげん」は減速材として重水を使うなど、少し高価であったことや、いわゆるプルサーマルと呼ばれる軽水炉でプルトニウム燃料を燃やす方が容易であるということなどの理由によって、大間の新型転換炉建設は中止され、替わりに、柏崎刈羽原子力発電所などで実績のある、ABWRと呼ばれる型の大間原子力発電所の建設が進められています。大間原子力発電所では全ての燃料を、プルトニウム燃料(MOX燃料)として燃やせる設計がなされており、プルトニウムを使って電気を作るという目的自体は変わっていません。

プルトニウムを燃料として通常の軽水炉で燃やすことは、世界中で行われてきました。これは、今後、ウラン資源が枯渇する可能性を踏まえて、新しい燃料としてのプルトニウムを扱う技術力を高めていくためです。「もんじゅ」は、冷却材として、水ではなくナトリウムを用います。これは、プルトニウムを燃やすだけではなく、新たに効率よく、プルトニウムを生産するためです。燃やした以上の燃料ができるので、「増殖」というキーワードが使われます。核分裂を起こす中性子のエネルギーが大きく、中性子が「高速」なままで、連鎖反応を起こすことから、「高速増殖炉」という名前がついています。資源のほとんどない島国である日本に、新しい人工的な「鉱山」を作ろうというプロジェクトです。

さて、「高速増殖炉」は、このように発電だけではなく「鉱山」にもなります。オイルショックでエネルギーの重要性を認識した日本においては、「夢の原子炉」として大きくもてはやされました。しかし、残念なことに、1995年、発電開始の4カ月後にナトリウム漏れ事故を起こして、長期停止になりました。2010年に再稼働しましたが、すぐに燃料交換装置が壊れる事故が起こり、止まったままです。

一方、アメリカでは、主として経済性の観点から、高速増殖炉の開発は中断しています。日本と同様に資源の少ないフランスでは、フェニックスなどの高速増殖炉を運転し、技術を蓄積してきました。しかし、ナトリウムを使うという技術的ハードルの高さ、また、どうしても大型化が避けられないため、経済性にも大きな課題があります。

最近は、エネルギー開発が必要な、中国、インド、ロシアといった国々で高速増殖炉の開発が盛んになってきています。ロシアでは BN-800という電気出力789MW(もんじゅの約3倍)の高速増殖炉が昨年12月に発電を開始したというニュースがありました。インドも、高速増殖炉の独自開発を進めています。中国では、ロシアから技術導入した CEFRという実験炉が、北京のすぐそばで運転中です。

5年以上前ですが、筆者はこのCEFRを見に行きました。中国の高速増殖炉研究者は、自信をもって、中国での高速増殖炉開発の重要性を力説していました。昨年末に訪問した広東省の大学では、大学が設計した高速増殖炉の模型が飾ってあり、高速増殖炉開発に、数多くの学生が取り組んでいました。

さて、経済性には劣ると考えられる、高速増殖炉をロシアや中国が一生懸命に開発している理由はなぜなのでしょうか。それは、高速増殖炉が、将来の世界を救うと考えているからです。 天然ガスや石炭などの化石燃料は、二酸化炭素の放出がどうしても付きまといます。二酸化炭素という廃棄物で、地球全体を大きく汚染していることになります。この廃棄物の物量に比較すると、原子力は10万分の1のわずかな廃棄物しか出しません。しかし、極めて危険なため、管理し安全に処分を行うという課題が付きまといます。廃棄物を空中に分散させて、見えないふりをするか、まとめて1か所に貯めて置くかの違いと言えなくもありません。昔は二酸化炭素の影響は見えなかったのですが、少しずつ見え始めています。

 一方で、高レベル廃棄物の問題も重要な課題です。しかし、高レベル廃棄物は、技術的にはクリアできる見通しが立っています。フィンランドやスウェーデンでは現実に処分を進めています。二酸化炭素もCCSといって、地中や海中に処分する方策が実用化に近づいています。しかし、コストなどの観点から、まだまだ時間がかかります。 このような背景、また、中国などのエネルギー利用量の爆発的な増大、化石燃料利用の限界、さらには、ウラン資源も無限ではないことなどから、新しいエネルギー源を確保することが、世界戦略の中で重要であると考えているからです。

つまり、高速増殖炉技術が30年後の世界を救うのです。このために、中国やロシアはスペードのエースを持とうとしているわけです。日本は、もんじゅというスペードのクィーンを持ちながら、それを捨てようということです。スペードのクィーンをいかにエースに育てていくか。その戦略がない限り、日本の技術立国はあり得ないと思います。

Q:夢の原子炉再び

しかし、明日の世界がわからない今の日本の状況では、30年後の世界のために、今、もんじゅが必要ということは、説得力があまりないですね。でも今やらないと手遅れなのです。 高速増殖炉技術は、追い抜くには30年かかると思います。既に日本は20年足踏みしていますので、間もなく、中国に追い抜かれるでしょう。世界を見ると、各国のエネルギー開発は20年後を見据えて戦略的に動いています。膨大なエネルギー消費国になるであろう中国の原子力開発戦略、原子力技術を輸出することで活路を見出そうとする韓国、それに対して、日本の無策ぶりはガラパゴスです。高速増殖炉が日本の存立のために必要、とわかった時には、時遅しです。

中国製の高速増殖炉を輸入せざるを得ない状態にならないためにも、今、もんじゅを動かして世界に貢献することが、日本の取るべき戦略と考えています。

新たなエネ資源を確保し将来の世界を救う一策に

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