原子力なんでもQ&A(45) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2016年5月号56ページより転載

もんじゅを止めるとどうなるのですか


 原子力規制委員会が、高速増殖炉「もんじゅ」の運営体制を見直すようにという勧告を文部科学省に出し、その対応について、文部科学省では議論が行われています。この勧告自体が、世界の原子力安全の考え方から、大きく間違っていることは、前回までに示してきました。しかし、無謬性を重要視する日本の官僚機構にあっては、たとえ間違っているとしても、一度出した勧告を取り消すことは非常に困難です。国立競技場のように、文部科学省の管轄であれば、総理大臣が取り消すことはできますが、原子力規制委員会は独立性が保証されており、総理大臣でも取り消すことはできません。

Q:アストリッドとは何ですか

 問題設定が間違っているので、正しい解はありません。大学入試なら、全員合格になってしまうような問題です。しかし、間違った問題設定の中で、解を得ようとすると、おそらく、最も安易な解は、もんじゅの開発を止めるという解です。もんじゅの開発を止めるとどうなるでしょうか?

 もんじゅが目指していた高速増殖炉開発を止めるのと等しい影響があります。日本の技術力維持はできないため、ロシアやインドの研究開発に大きく後れを取ります。また、核燃料サイクルの基幹システムである高速増殖炉を止めると、核燃料サイクル自体の魅力が薄れます。下手をすると、2018年の日米原子力協定改定に大きな影響があるかもしれません。また、もんじゅの廃止措置を進めることになりますが、1000億円以上の資金が必要です。

 一部の方々の間に、高速増殖炉開発は、もんじゅではなく、フランスとの国際協力によってアストリッド開発を進めれば十分である。という認識があるようです。アストリッドとは何でしょうか? フランスでは、フェニックスという高速増殖炉を30年以上にわたり運転してきました。現在は、廃止措置準備中です。フランスは、原爆の保有国です。再処理技術も優れたものを持っています。原子力発電による電力供給が80%を占める原子力大国です。原子力発電所で出てくる使用済み核燃料を再処理することによって、プルトニウム燃料を取り出すこともできますが、廃棄物の物量を大幅に削減することもできます。高速増殖炉で廃棄物を燃やすと、さらに廃棄物の物量を小さくできるのです。

 このメリットに着目し、フランスでは、高レベル放射性廃棄物削減のために、高速増殖炉を作ろうとしています。これがアストリッドです。このアストリッドを開発に協力することで、日本の核燃料サイクル政策を維持しようというアイディアが生まれてきました。今、アストリッドを国際協力で開発するために、日本国民の税金が大量にフランスに流れています。開発成果がちゃんと日本に戻ってくるのであればたいへん安いものかもしれません。

Q:もんじゅとアストリッドの違いは

 さて、もんじゅとアストリッドでは実は大きな違いがあります。ナトリウム冷却高速増殖炉には、大きく分けてタンク型とループ型の2種類があります。軽水炉でBWRとPWRがあるようなものです。フランスのフェニックスやアストリッドは、タンク型と呼ばれる方式で、大きなタンクの中に、原子炉や熱交換器なども設置してしまう方法です。一方、日本で開発されてきたもんじゅはループ型と呼ばれる方式で、原子炉と熱交換器が別々の容器に入っていて、それらを配管で結ぶ方法です。タンク型の方が作りやすいことなどから世界の主流はタンク型です。なぜ日本はループ型なのでしょう。答えは、地震です。

 高速増殖炉は、ほぼ大気圧の金属ナトリウムを冷却材として用います。このため、温度は500度という高温になります。300度程度のナトリウムが、原子炉を通ると500度に加熱されて出てくるのです。この温度差が問題です。材料は、温度差があると大きな力を受けます。電車のレールには、夏の暑い時に延びるので、それを回避するために継ぎ目があります。継ぎ目がないと延びることが出来ないので大きな力がかかることになります。高速増殖炉の容器は、継ぎ目を作ることが出来ないので、大きな力にも十分耐えられる材料で作ります。この力は温度差できまります。

 材料の厚さが厚ければ厚いほど、温度差が付きやすくなり、大きな荷重がかかり壊れてしまいます。つまり、薄い方が安全です。これが普通の軽水炉と大きく違う点です。一方、日本のような地震国では、地震の力を無視することはできません。地震に耐えるためには、板厚は厚い方が安全です。容器の大きさが大きくなればなるほど、地震に耐えられる板厚は厚くなります。

 温度を考えると薄い方が良く、地震を考えると厚い方が良いのです。軽水炉は、元々板厚が厚いので、問題ないのですが、高速増殖炉は、板厚が温度の影響であまり厚くできないので、地震との関係が重要になります。

 さて、フランスも南部は地震がありますが、それでもその大きさは日本に比べると非常に小さいのです。このため、タンク型炉を開発してきています。一方、日本では、小さな出力であれば、タンク型炉を作ることができます。しかし、実用化を考えると、大きなタンクを用いた設計は成立しません。このため、原子炉と熱交換器とを別々の容器に入れて、比較的小さな容器になるようなループ型の設計がとられてきました。

 近年、日本では設計に用いる地震の大きさがどんどん大きくなってきており、ループ型でも、非常に厳しい条件になってきています。もんじゅ程度の中出力であれば、全く問題ないのですが、実用炉の様な大出力にしようとすると、ループ型でも容器が大きくなり、設計が大変になってきます。つまり、さらに大きな容器を用いる必要がある、タンク型であるアストリッドを幾ら開発しても、日本ではほとんど役に立たないのです。

 タンク型とループ型では、事故時の自然循環による冷却性能等が全く異なります。大型化に伴う安全上の確認を、ループ型で実施することなしに、ループ型の高速増殖炉を建設することは困難です。もんじゅは、大型の実験装置でもあります。これから開発していく高速増殖炉の安全性を確認し、かつ担保するための重要な装置です。

Q:仏や世界のために税金を使うの

 核燃料サイクルの中核である高速増殖炉開発を、日本のためではなく、フランスのために使うことになります。つまり、日本の核燃料サイクルには、実質上、あまり役に立たないアストリッドの開発を幾ら進めても、意味がないことになります。フランスの開発を進めることが世界のために役に立つので、そのために日本国民の税金を投入するということであれば、それでも良いと思います。日本には直接的には役に立たなくても、フランス、それから世界のために、役に立つのであれば国民も税金を使うことを納得するかもしれません。

 なお、もんじゅを廃止する前に、核分裂ではなく、電気で加熱して自然対流除熱実験を実施してはどうかという提案があるようです。これは、入熱が小さすぎるために、自然循環除熱性能などが全く分からないので、ほとんど意味がありません。また、福島で経験したように、原子炉停止後の崩壊熱の除熱が重要なのですが、崩壊熱は非常に大きいため、電気加熱では模擬できません。電気代に見合うだけのアウトプットが得られるとは思えません。

 もんじゅを止めるということは、残念ながら、日本では核燃料サイクルを止める、もしくはかなり延期する方向に意思決定をしたことと、ほぼ等価になります。独自での原子力エネルギー開発はあきらめ、中国やロシアと協力して行くことも必要かもしれません。

   現在、石油価格の暴落によって、世界のエネルギー環境は非常に厳しい状況にあります。石炭でさえも赤字になるという状況のため、原子力も厳しい環境です。ある意味チキンレースをしている状況で、どこかが倒れるのを待っている格好です。エネルギー資源投資に関わるリーマンショックが起きそうな状況です。チキンレースの最中に、日本が核燃料サイクル撤退という引き金を引くのは、かなり損かもしれません。

日本の核燃サイクル中断につながる

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