平成28年4月27日の原子力規制委員会で、志賀原子力発電所の活断層についてのいわゆる有識者の報告書を受領しました。この報告書では、1号機の下を通る地盤の割れ目が、いわゆる活動性のある断層と判断する解釈が合理的であると記載されています。一部の新聞では、志賀原子力発電所1号機は活断層の上にあるので廃炉せざるを得ないと騒いでいます。残念ながら、この報告書は極めて非科学的です。理学部でも工学部でも、科学を専攻する学生が、この報告書を持って来たら100%不合格になります。
このような非科学的な報告書を、なぜ原子力規制委員会が受け取ったのかは理解できません。しかし、上記新聞報道によって、規制委員会は科学を無視するということを世界に知らしめてしまいました。
しかし、規制委員長の発言などを良く聞いていると、有識者の皆様が苦労されているので、報告書が出てきたからとりあえず受け取ったというだけであり、判断は今後の審査で実施すると言っています。つまり、単なる儀式であり、規制委員会は〇とも×とも言っていません。本音としては、この報告書は受け取りたくなかったのではないでしょうか。
原子力発電所だけではなく、我々の社会は、科学技術を活用して人類の福祉向上に努めています。間違った科学技術は、危険につながり、誤った判断につながります。このため、世界中で、科学技術の信頼性を高めるための様々な仕組みが組み上げられています。理系の大学院生は、研究を行っていますが、その目的は、新しい科学技術を開発することや、科学技術の背景にある真理を解明することにあります。科学技術によって、現代社会は成り立っており、より効果的で、より安全で、より優れた科学技術を利用していくことが必要です。
通常、研究成果は、学術論文として世界に発表されます。発表される前には、学術論文が正しいのか、もしくは十分な実証が尽くされているのか、といった観点から必ず審査が行われます。審査はピアレビューと呼ばれ、同じ分野の専門家による審査です。著名な学術誌は、このピアレビューシステムの信頼性が高いのです。いいかげんな論文が発表されると、その学術誌の価値を下げてしまうためです。例えば、STAP細胞の論文についても、ピアレビューによって何回か拒絶されていますが、最終的には審査が通ったことにより、学術誌に発表されるという手順をとっています。通常、全ての学術論文がピアレビューの洗礼を受けます。レビュアーからのコメントや質問に、論理的に返答できない場合、その論文は日の目を見ることはありません。科学技術ではない、単なる思い付きメモになります。
筆者の研究室でも、院生は数多くの学術論文を投稿していますが、半分程度の論文は、拒絶されて日の目を見ることがありません。コメントや質問への回答が十分であると、ピアレビューで判断された論文だけが、学術論文として公開され、研究成果となります。なお、公開されたのちも、学会や様々な機会で、研究者同士の討論を通じて、さらによい研究成果へと、ブラッシュアップされていきます。このような経験を数多く積むことで、優れた科学者を輩出し、かつ、優れた研究成果に繋がっていくのです。
さて、志賀原子力発電所に対する有識者報告書は、活断層素人の筆者が見てもおかしいです。S-1という割れ目は、南東部においては活動していないが、そこから100m程度離れた原子炉建屋を通る北西部においては活動している、と解釈するのが合理的なのだそうです。活断層は、地下深くの3〜5kmに存在し、その一部が地表に出てきているものです。つまり、S-1が活断層であるとすると、少なくとも深さ3kmの幅を持った断層です。S-1は北西部ではS-2などの割れ目に突き当たるので、北西部の長さは、どんなに長く見積もっても300m程度しかありません。つまり、繋がっている南東部の断層は動かさずに、長さ300m、深さ3kmの断層が、上下方向に動いたと考えるのが合理的と言っています。素人が考えても物理的にあり得ないように思えます。
これ以外にもおかしな点が多数あり、ピアレビューでは、多数のコメントがつきました。不思議なことに、これらのコメントに対して、何ら合理的な回答をすることなく、昔書かれたスケッチが活断層に見えるという一点張りで、判断を下しています。つまりピアレビューは、通過しておらず、単なる思い付きメモでしかありません。なお、このスケッチは、設置以前の審査で使われたもので、今は原子炉が立っているので、その場所は存在していません。
都合の悪いデータを無視、または、都合のよいように解釈することは間違っています。科学技術ではデータが全てで、矛盾するデータが出てきた場合には、矛盾を解消するためのモデルを構成することや、そのどちらかが間違っている可能性を科学的に証明することが必要です。
有識者委員会は、矛盾を解消するために、物理的にあり得ない長さ300mのずれを仮定せざるを得ませんでした。ピアレビューを通過していない単なるメモであり、科学的には意味がありません。矛盾解消のモデルが作れないのであれば、どちらかが間違っている可能性を証明するしかありません。
南東部が動いていないことはピアレビューでも認められた事実です。つまり、あとは北西部のスケッチが、間違っていた可能性を示すことしかありません。このため、事業者は、数多くの穴を掘ってデータを提供して、科学的にスケッチが活断層を示したものではないことを示してきました。外部専門家にも依頼し、いわゆるピアレビューでも、その事実を確認してきています。
一方、規制委員会は、間違いを正す正義を持っていません。一つでも間違いを認めると、全部将棋倒しになることを恐れているようです。ある意味、現在の科学技術は、数多くの間違った技術の屍の上に成り立っています。ピアレビューを受けたとしても、STAP細胞のように、必ずしも正しいとは限りません。科学技術の発展によって、間違った技術は自然に淘汰されていくのです。
今回の報告書受理にあたり、規制委員長は、「限られたデータ、特に古い旧A・Bトレンチのスケッチのデータが非常に大きな意味をこの報告書ではしている」と言っています。逆に言うと、スケッチしか無いのです。矛盾したデータは単なるスケッチ1枚です。一方で、事業者側は、現在採りうる大量のデータを提示しています。
委員会では、有識者の方々のご苦労をねぎらう言葉がいっぱいありましたが、これは、単に、有識者の思い込みをサポートするデータが一切出てこなかったことを意味しています。スケッチをサポートするデータが全くないのです。このため、無理やりスケッチを位置付けることに苦労されたのです。普通の科学ならば、他のデータを元にスケッチを合理的に排除することができるにもかかわらず、無理やり、有りもしないモデルを作り上げて説明するのに苦労したのです。これは、科学技術ではありません。
また、今回の報告書受理にあたり、今後の課題として、スケッチの元となった写真を提出することなどが求められています。あまりのむちゃくちゃな要求で、唖然とします。そんなものがあれば、事業者はとっくの昔に提出しているでしょう。事業者に都合のよいデータも悪いデータも全て提出して議論することが科学の前提です。つまり、規制委員会は事業者が隠していると指摘しているに等しいです。都合の悪いデータを見ないのは、規制委員会であって事業者ではありません。そこまで、規制委員会が腐っているかと思うと残念でなりません。こんな態度では、科学的な議論は不可能です。
是非、規制委員会に猛省していただきたいと思います。
| 科学的でないおかしな点が多数あり |
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