原子力なんでもQ&A(49) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2016年9月号48ページより転載

より良い検査とは どのようなものですか


Q:安全を確保する鍵とは

原子力発電所は安全を第一に、電気を安定的に供給するという役割があります。安全を確保するためには、しっかりとした信頼性の高い設計と、設計通りに建設がされていることがまず重要になります。しかし、それだけではなく、60年にもおよぶ長期の運転に際して、安全が確保されていることが必要になります。この安全確保は、まずは、きちんと運転がなされていることが必要です。このためには、装置が正しく動いているだけではなく、運転員が正しく操作をすることが必要になります。長い運転期間には、装置が故障することもあるでしょうし、ケーブルなどが劣化することもあるかもしれません。これらの装置の保守を正しく行い、機器を交換することなども必要になります。

車を運転することを考えていただければわかりやすいかもしれませんが、きちんと信頼性の高いメーカで作られた車を購入するだけではなく、運転する人も免許証をもっていることが必要です。異常事態が起きた時に正しく対応ができるように、何かあったらブレーキを踏んだり、ハンドルを動かして事故を回避したりすることが必要です。また、アイサイトなどの監視装置で、事故を避けるようなシステムの導入も有効です。さらに、運転前の点検と、定期的な車検によって、保守を行います。

発電所の安全が確保されていることを見るためには、運転員や保守員の動きをずっと監視していることは意味ありません。きちんと運転がされていることを確認するとともに、能力を持った運転員や保守員が、毎日勉強を続けながら、安全に運転していることを確認することが重要です。設備も時間とともに劣化しますが、人間や組織も常に勉強し続けないと、どんどん劣化していきます。運転経験を積むだけではなく、どうすればより安全になるかを考え続けること、つまり継続的に改善を続ける人材と組織が重要な視点になります。これらの安全を確保する活動が着実に進められていることを検査で確認することになります。

Q:より良い検査とは

アメリカでは、ROP (reactor oversight process)と呼ばれるやり方で原子力発電所全体の安全性を見ています。日本語に訳すと、原子炉俯瞰評価とでも言うのでしょうか、ここでは俯瞰という考え方が重要です。法律に合っていることは大前提で、原子力発電所の状況を俯瞰的に監視するとともに、改善が進められていることを評価していきます。

ちなみに、日本では、法律やマニュアルに適合していることだけを検査で確認しています。これは、原子力規制委員会に全く実力がないことの裏返しです。文章に書かれていることどおりに、実行されているかどうかは、日本語が理解できれば、誰にでもわかります。つまり、実力のない検査員でも、検査をやったことになるのです。なお、同じことが、原子力発電所の安全審査でも行われています。法律に書かれていることが着実に確保されているかどうかだけを審査します。原子力発電所が危なくなろうと、もっとリスクを下げる方法があろうと、法律に書かれていることを単純に確認しているだけです。原子力規制委員長も、原子力発電所が安全であるかではなく、法律に適合しているかどうかだけを見ると明言しています。困ったものです。

さて、日本以外の海外では、法律を守ることは大前提です。もし、法律を破っていれば、大きなペナルティを科されます。法律を守ることは大前提として、事業者がさらにどのような改善を進めていくかを見るのが、世界の常識です。日本でも、自主的安全性向上を行うということが法律に規定されましたが、規制庁に実力がないため、また文章をチェックすることになりそうで心配です。

Q:ROPとは

ROPの目的は、公衆の健康と安全の確保です。この目的を達成するために、原子力発電所が正しく運転されていることを、7つのコーナーストーンと呼ばれる視点で評価します。原子力安全に関する4つのコーナーストーンは、「起因事象」「緩和系」「バリア健全性」「緊急時対応計画」の、いわゆる深層防護の各層に対応した発電所の現状や対応を評価していきます。

これに加えて、放射線防護に関する2つのコーナーストーン、「公衆被ばく安全」「従業員被ばく安全」を評価することで、一般の公衆への被ばく量を十分に安全な状態に管理できているか、また、従業員に対してもALARAの精神にのっとって、十分に安全な状態に管理できているかを評価します。7つ目のコーナーストーンは、安全保障にかかわるもので、いわゆる「核物質防護」に関するものです。また、7つのコーナーストーンの視点よりも幅広い視点で評価すべき人的要因などに関するパラメータは、クロスカッティングイシューとして別項目で評価します。

これらのコーナーストーンに対して、3カ月ごとに成績発表をします。パフォーマンス(運転管理の状況)を数値化して評価するとともに、検査で見つかった課題を明らかにし、色で成績をつけ、ホームページに公表します。NRCのホームページを見ていただければ、その内容が良く分かると思います。100近くある発電所全てについて公表されています[ http://www.nrc.gov/nrr/oversight/assess]。

まず、何も問題がない場合は色が付きません。何か課題が見つかった場合には、この課題が、原子力発電所の安全にどの程度寄与するかを定量的に評価していきます。簡易的なPRA手法を用いることもあります。安全に影響しない課題は、事業者が対応することが求められ、「緑」になります。緑の状態では、課題が見つからなかった状況と一緒です。原子力発電所の安全に少し影響があると考えられるものは、「白」になります。これは、規制側も対応を行います。さらに安全に影響があると考えられるものは「黄」になります。同じようなトラブルが繰り返し起きている場合なども、このカテゴリになります。許容できない安全上の影響があると判断される場合は、「赤」になり、運転停止などの指示が出される場合もあります。

ここで、重要なのは、改善に対する対応が重視されます。ハードウエアの故障は、管理が不十分だったという観点から評価がなされますが、それよりも、故障した後の対応などが、安全上問題がないかをしっかり確認していきます。改善への姿勢、改善の方法など、マネジメントが十分に機能していることを重要視しています。過去に、赤が出された例を見ると、デービスベッセのホウ酸制御失敗とCAP(是正措置プログラム)が不十分であった場合などです。この場合は、事前に兆候がいくつもあったのですが、CAPがうまく機能しておらず、大事故の直前にまで至ってしまった事象です。幸いなことに、大事故には至らずに済みましたが、CAPをいかに正しく機能させる必要があるかを、世界中に考えさせる事象でした。

前回のQ&Aで、検査にはCAPが重要であると説明しました。トラブル対応を中心とした「不適合管理」では、原子力発電所の安全は、全く確保できないのです。発電所に働く全ての人が、センサーとなり、原子力発電所の声なき声を聴いて、少しでもおかしいと思ったことをCAPデータベースに入力し、それを、発電所の担当者や、規制担当者が様々な視点で認識し考えることで、トラブルを未然に防ぐことが可能になります。

振り返って日本の場合はどうでしょうか? 日本では、CAPを実施している発電所はあまりありません。その代わり「不適合管理」を実施することが求められています。また、保安検査などでは、書類上のエビデンスが揃っていることが求められます。原子力安全ではなく、書類安全が重視されます。ミスがあると、原子力安全には全く関係なくても、規制庁から怒られます。この時、マスコミがどれだけ大きく扱ったかが重要視されます。原子力安全とは全く関係がありません。今、ROPを日本に導入する議論が進んでいますが、マスコミではなく、原子力安全の本質をちゃんと理解し、リスクを中心とした評価を進めることが必須であると思います。

継続的に改善を続ける人材と組織が重要

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