原子力なんでもQ&A(50) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2016年10月号48ページより転載

原子力発電所は地震で 壊れないのですか


Q:地震は本当に心配ないの

 本誌8月号に、原子力発電所に対する地震の影響について、糸井先生による詳しい説明が書かれています。技術的には、地震に対する非常にしっかりとした設計と対策がなされていることがわかります。しかし、最近、熊本地震をはじめとして、日本中で震度4を超える地震が頻発しており、本当に大丈夫かなぁ、と気になる人も多いかと思います。

 まず地震では、原子力発電所が事故になることはほとんどないと思っていただいて大丈夫です。リスクを極限にまで減らすとともに、現状に決して満足せず、熊本地震などの新知見をどん欲に取り込み、地震に対する改善を継続的に進めている限りは、安心していただいて構いません。しかし、研究開発や改善を止めたとたんに、リスクが高まります。

 日本は地震国ですから、地震によって非常に多くの災害を経験してきています。熊本地震でも何人もの方が亡くなっていますし、東日本大震災とそれに続く津波は、1万人を超える方の命を奪いました。さらに、津波によって引き起こされた福島第一原子力発電所事故は、それなりの安定状態にはありますが、まだ継続していると言っても過言ではない状況です。

 原子力発電所は、歴史的にはアメリカや旧ソ連で開発され、世界中で利用されてきています。アメリカもカリフォルニアなどでは大地震が頻発しており、地震に対する備えは、開発当初から考えられてきました。とはいっても、当時は、技術力もまだまだ十分ではありませんでした。そこで地震に対しては十分大きな余裕が取られていました。

Q:工学の考え方とは

 工学という学問は、安全を確保しつつ、どのように人類に便益を与えるかを考える学問です。不確かさを可能な限り制御し、安全に対する余裕を確保し続ける学問です。ある意味、失敗を繰り返しながら、より安全に改善をし続けることで成り立つ学問と言ってもよいかもしれません。

 地震や津波といった、いろいろな脅威に対して、さまざまな対策が取られますが、不確かさが常に付きまといます。どんなに大きな地震を想定したとしても、その想定自体に大きな不確かさが含まれ、また、一つとして同じ地震はありません。毎回違う地震が襲ってきます。このため、対策には、不確かさを考慮することが必須となります。

 通常、不確かさの大きなものに対しては、安全に対する大きな余裕を取ります。椅子を設計するときに、何kgの体重の人が座ることを想定するかを考えます。まず、公園のベンチを作るときに、200kgの体重を想定して設計をすることにします。しかし、公園では、どのような人が座るかわからず、もしかすると数人が同時に座る可能性もあります。公園に来る人を観察していると、たまに最大3人くらいが座るので、まぁ、200kgという想定は十分に合理的であるといえるでしょう。しかし、お相撲さんが来るかもしれませんし、不確かさは比較的大きいです。

 このため、200kgという想定に対して、例えば3倍の大きな安全余裕を見て設計をします。具体的には200kgで椅子にかかる応力を計算し、材料が壊れる応力の1/3以下であることを確認することで設計をするという形になります。材料の壊れる応力にも材料ごとにある程度の不確かさが付きまといます。これらを踏まえても大きな安全余裕を持っていることが重要です。

 次に小学校の椅子を、100kgの体重を想定して設計します。小学校の椅子は、ふつうは子供が一人で座ります。体の大きな親は座ることができませんので、100kgは妥当な値です。椅子に座る人が、一人の小学生と限定されますので、不確かさは比較的小さいです。このため、100kgという想定に対して、例えば2倍の小さな安全余裕を見て設計することもできます。

 ここにあるように、過去の事例、現状、さまざまな境界条件を考えて、想定する荷重を決めます。さらに、この想定する荷重の不確かさを考慮して、安全余裕を考えます。実際に、ボイラーなどの圧力容器の設計に使われているアメリカ機械学会(ASME)設計基準で考慮されている安全余裕は、昔は大きなものが使われていました。経験値が十分ではなく、不確かさが比較的大きかったためです。

 その後、材料の信頼性や、溶接など製作段階の信頼性が高まり、出来上がったボイラーの不確かさが比較的小さくなってきたことから、安全余裕は歴史的にだんだんと小さくなってきました。昔はボイラーが爆発する事故がありましたが、現在、ボイラーが爆発する事故はありません。設計、製作、運転保守などが標準化され、信頼性が十分に高まってきており、不確かさが低減されてきているためです。安全余裕の考え方は、信頼性や不確かさと大きく関連していることがわかると思います。

Q:不確かさと地震との関連は

 さて、地震の大きさに対する不確かさは、過去は非常に大きいものでした。地震学がまだ十分ではなく、非常に大きな地震を想定するとともに、安全余裕も大きく取っていました。福島第一などの古いプラントでは、非常に大きな安全余裕を持っています。神戸・淡路大震災の後、耐震設計基準が改訂され、地震の想定がどんどん大きくなってきても、いくつかの弱いシステムの補強をすれば、ほとんどの部分は十分にもつのはこのためです。また、原子力発電所は、複数の安全システムを独立に持っていますので、一つのシステムがやられても、他のシステムで安全を確保できるという思想を持っています。地震で同時に全部のシステムがやられてしまう可能性はゼロではありませんが、十分に小さく抑えられています。これは、大きな安全余裕を取っていることも一つの大きな理由です。

 なお、想定するべき地震動は、考えられる最大の地震ではありません。不確かさを考慮して想定される最大の地震です。また、大きな安全余裕があるため、これを超えたらすぐに壊れるものではありません。200kgの想定で設計されているベンチに、万一300kgの人が座っても壊れないのと同じことです。設計のために想定するもので、安全余裕とは独立に設定されます。想定地震を超えると壊れるとおっしゃっている先生がいらっしゃいますが、それは間違いです。

 なお、福島第一の事故の後、設計を超える、つまり想定を超える地震がきた場合の対策をさらに充実することが求められています。ストレステストなどでは、敢えて安全余裕を無視し、地震を大きくしていった場合の弱点を探しました。1.5倍とか2倍でも大丈夫とか言われていたのを覚えている方もいらっしゃると思います。この時のストレステストでは、安全余裕を無視していますので、実際には、さらに大きな安全余裕があります。

 問題は共通要因故障です。地震の場合、地震で全ての電気が使えなくなることに対して複数の対策が取られています。万一の場合に備えて、電源車をつなぎこんだり、山の上にガスタービン発電機を設置したり、非常に大きな地震で電気が使えなくなった場合の対策が充実しています。一番問題と考えられるのは、建屋が地震で崩壊する共通要因故障です。建屋がもてばまず大丈夫です。原子力発電所の建屋は、人間の腕ほどの太さの鉄筋を使った、厚さ5mの基礎鉄筋コンクリートの上に建てられています。真下の断層が少しくらい動いても、建屋は崩壊しません。M9の東日本大震災でもびくともしませんでした。建屋も大きな安全余裕をもって作られています。断層がちょっとでも動くと原子炉が壊れるといわれている方もいますが、それも間違いです。

 地震については十分に大きすぎる余裕がありますので、まず問題ありません。しかし、安全だと思い込んでしまうことは危険です。常にさまざまな新知見を取り込み、改善を続けることが、安全を確保するために必須です。

不確かさの制御、安全余裕の確保のため常に改善を

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