原子力なんでもQ&A(51) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2016年11月号50ページより転載

もんじゅ廃炉の問題点は


8月末の毎日新聞に、官房長官の下で、もんじゅの廃炉を含めた検討が進められているという記事が掲載されました。官房長官は直ちに否定されましたが、火のない所に煙は立たぬと言います。また、文部科学省のもんじゅの検討会が報告書を提出してから、2カ月以上にわたり何も動きがありません。本来であれば、7月中にはもんじゅの運営に関しての具体的な対応が提示される予定でした。文部科学省では、おそらく解が見つからずに、行き詰っているというのが現状のようにも推定されます。この記事を書いている間にも、あちこちのマスコミでもんじゅ廃炉にむけた政府からのリークが続いています。政府としてもんじゅに責任をとる、つまり決断をする必要に迫られています。この記事が発刊される頃には、廃炉が決定されているかもしれません。

 今までも本Q&Aで触れてきたように、また、様々な雑誌でももんじゅの必要性については議論がなされています。可能なオプションとしてはいくつもありますが、50年後の日本にとって最適なものは、「もんじゅ再稼働」です。一方、社会的な風潮としては、「もんじゅ廃炉」というオプションも当然検討の俎上には載っているでしょう。この他、中間的なオプションもいくつかありますが、改めてこの2つの極端なオプションについて考えてみたいと思います。

Q:もんじゅを廃炉するとどうなるのでしょう

  1. 高速増殖炉もんじゅは核燃料サイクルの中核ですので、核燃料サイクルが50年先送りになります。日本の国策としての核燃料サイクルは、大幅な見直し対象になるでしょう。日本は資源を持たない国です。高速増殖炉もんじゅは、電気を作るとともに、プルトニウム燃料を生産する鉱山になるという大きなメリットがあります。30年後に安定なエネルギーを得るためには、もんじゅを活用した核燃料サイクルが重要なオプションです。もんじゅを捨てるということは、日本はエネルギーセキュリティにおけるカードを一枚捨ててしまったことになります。今は何とかなるかもしれませんが、30年後に大変困ると思われます。また、大きな国策の転換になります。  なお、フランスのアストリッド計画を進めることで代替しようという甘い意見があります。アストリッドはフランスではほぼ頓挫しています。また、目的は核変換による高レベル廃棄物処理なので、もんじゅとはシステムも全く異なります。アストリッドは地震に弱いタンク型です。日本では地震に強いループ型のもんじゅが必須ですので、アストリッドに国民の税金を使うのは無駄使いです。

  2. また、世界の将来エネルギー開発に向けて、長期的に投資されてきた資金と人材が無駄になります。ほぼ完成に近い形で止めることになりますので、あと少し頑張れば得られる大量の知識と研究成果が得られなくなります。高速炉増殖炉開発については、代替手段もありません。地震国日本に特有のループ型炉の特徴を活かした、自然対流冷却性能評価は、実用化に必須の技術です。日本の国策としての核燃料サイクルを推進しようとすると、どうしても地震に強いループ型が必要です。大規模ループを国内で作って実験するだけで2000億円くらい掛かるので、意味はありません。  つまり、いずれにせよ、30年後にもう一度2兆円をかけて、ループ型の新もんじゅを作る必要があるというだけです。同じものを作ってもしょうがないので、おそらくは30年後に一発勝負で大型のもんじゅを作るのだと思いますが、まぁ、あまりお勧めできません。

  3. 核燃料サイクルが先送りになることで、日本に大量に貯蔵されているプルトニウムが減らなくなり、50年間たまり続けることで、国際的約束を果たせなくなります。核燃料サイクルの先送りによって、今、建設が進められている六ケ所の再処理施設などの必要性が薄まります。 青森県が、今後も核燃料サイクルを積極的にサポートして行くことができるかは不明です。プルサーマルは、もともと経済性が悪く、もんじゅの遅れによるプルトニウム蓄積を補填するために、進めているだけです。サイクルが回りませんので、再処理施設の意味も、廃棄物処理施設の意味が強くなります。

  4. もんじゅは少しだけ運転していますので、簡単に廃棄することができません。すでに大量の放射性物質が原子炉周りに存在していることになります。安全を確保して廃炉を進めるために、コストがかかります。なお、この廃炉費用は、運転を継続したとしても、運転を停止する30年後には同様にかかる経費です。ただ、放射性廃棄物の量は、今の方が少ないと思われます。

  5. それから、地元の雇用が消えます。もんじゅ廃止措置にはもんじゅ運転に比べて1/100位の予算と人員しか必要ありません。核燃料サイクルを推進してきた敦賀市も、はしごを外された形になります。

  6. 高速増殖炉の研究開発が止まりますし、核燃料サイクルが先送りになりますので、優秀な人材は高速増殖炉や核燃料サイクルから居なくなるでしょう。高レベル廃棄物を処理してなくしてしまおうという核変換に関する技術開発も止まります。もし、アストリッド計画が進めば、高レベル廃棄物核変換の技術開発自体は進めることができます。

 もんじゅ廃炉はデメリットばかりに見えますが、メリットもあります。

  1. 国民の安心買うことができます。しかし、決して安全を買うことにはなりません。将来の国民のエネルギー安全保障を犠牲にして、今の安心を買うだけです。今は問題ないかもしれませんが、近い将来に課題を先延ばししただけです。消費税の増税を先延ばしして、将来の国民につけを回しているのと同じです。

  2. 再稼働に向けて必要なコストが節約できます。金額だけではなく、審査や研究などに掛かる社会的コストも減ります。金額的には大きな額ですが、将来の安全保障への投資額としては大したものではありません。ここでもんじゅを廃炉にしたときに、将来に掛かる金額に比べたら微々たるものです。残念ながら、これらの投資は、今はまだ生まれていない子供たちのためなので、当然投票権はありません。投資を回収するころには居なくなっているであろう有権者の皆さんにとっては関係のない話です。原子力基本法第1条に「将来のエネルギー資源を確保」するために研究開発を進めると高らかに謳いあげていますが、今の日本人には将来など関係ないのかもしれません。

  3. 規制委員会は、技術力がないことを世間に知られずに済みます。高速増殖炉に関する技術を持った職員も委員もいないため、新規制基準を作ることができていません。リスクを考えない規制基準では、規制に起因する事故が起こる恐れがありましたので、それは良かったかもしれません。規制委員会リスクは、とりあえず回避は可能です。

Q:もんじゅ再稼働のハードル

 再稼働には、上記の廃炉のメリットを克服することが必要です。安全性については、規制委員会がちゃんと勉強していただければ、全く問題ありません。電気がなくても冷えるので、軽水炉よりもある意味安全です。将来の国民への投資として2兆円と10年の開発期間を受け入れられるかどうかです。核燃料サイクルを維持し、将来のエネルギーセキュリティのためには2兆円は高くありません。すぐに回収できる金額でもあります。

 もんじゅを廃炉にすると、今の国民には受けると思います。しかし、30年後に慌ててももう遅いです。エネルギーを中国とロシアに握られ、独立国家が維持できているかもわかりません。エネルギー政策は国家存亡にも大きく影響します。先送りを行ったことが福島第一原子力事故の要因であると国会事故調は指摘しました。

 事故後も政府は全く変わらず、先送り政策をとりまくっています。エネルギー政策も先送りすることで、気が付いた時には取り返しがつかなくなるでしょう。将来の日本国民への投資として、ここを踏ん張ることができるかどうかが求められています。

政府は先送り政策に拘泥し先を見通せず

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