11月4日にパリ協定(Paris Agreement)が発効しました。この協定においては、世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つこと、同時に1.5℃未満を目指して努力することを明記しています。各国ごと異なる事情があることを前提に、各国の責任や能力に応じた貢献を行う必要があります。各国は事前に温室効果ガス排出量の削減目標を提出していますが、5年ごとに進捗状況を確認するとともに見直しを行うことが必要になります。各国が世界に具体的な活動を約束しているもので、国際的に非常に重要な協定です。
昨今の台風の巨大化や、異常気象は、誰しもが感じるようになってきました。このため、地球温暖化の防止に向けて、世界中で協力して温暖化を防ぐために、二酸化炭素等の温度効果ガス排出量を削減することを目的にしています。パリ協定で具体的な数字として挙げられているのは、上記の2℃上昇に抑えるということだけです。しかし、枠組みが設定されたことによって、世界各国がパリ協定の中で、努力を行い続けることが必要になります。
日本については、昨年7月に、2030年度までに2013年度比26%減を実現可能な削減目標として提出しています。この数字がどれだけチャレンジングなものかを考えていく必要があります。この数字を達成するために、エネルギー基本計画のなかで、原子力発電を20-22%とするとともに、再生可能エネルギーを22-24%と規定しています。つまり、原子力発電が20%という大きな割合を達成しない限り、達成不可能な数字です。再生可能エネルギーがあれば達成できると、非常に甘いことを言う専門家が多いのですが、ちょっと考えれば、そのようなことはあり得ないことがわかります。おそらく日本が約束を破るか、安全な原子力を利用するかの二者択一なのだと思います。
再生可能エネルギーは、太陽光バブルがはじけようとしています。売電価格はどんどん下がるのに、設備価格はあまり下がっていません。数年前は、住宅会社も太陽光パネルの設置を強力に推進していました。それは、絶対に儲かるからです。今は、ほぼトントンになってきており、まもなくブームは終わると思われます。なお、皆さんは、電気代に再エネ発電賦課金として2.25円/kWh払っています。家庭の電気は23円/kWh程度ですので、10%も余計に、太陽光発電業者に、皆さんが支払っているのです。この金額は、今後、確実に倍以上になると考えられています。家庭は頑張れるとしても、産業用の電気にも賦課金が税金のように乗ってきているのです。
それ以外にも、再生可能エネルギーの問題は、風任せ、太陽任せであることです。欲しい時に必要なだけ電力を供給するということができません。需要に合わせて供給を制御できないのです。このため、需要に合わせて供給を制御できる火力発電所を準備しておかなくてはなりません。再生可能エネルギーの供給は、勝手に増減するので、必要な需要に合わせるために火力発電所を動かしたり、止めたり、という調整が必要になります。場合によっては分の単位で再生可能エネルギーが大きく変動するので、需要に合わせることが非常に大変になってきているのです。
再生可能エネルギー先進国のドイツでは、このような再生可能エネルギーの変動に対処するために、石炭火力発電が増えるという事態を招いています。フルパワーの時間が短くなり、設備利用率も悪くなるため大赤字になり、ドイツの電力会社は、火力発電所を別会社として分離しました。また、2015年には温室効果ガス排出量も逆に増えてしまっています。
10月初旬に東京において、ICEF (Innovation for Cool Earth Forum)が、日本政府主催で開催されました。Cool Earthは直訳すると冷たい地球ですので、温暖化防止の方策を考える国際会議です。この会議は、日本が世界の温暖化にどのように貢献していくべきかを議論するために、年1回開催しているものです。 http://www.icef-forum.org
二酸化炭素排出を削減するために、世界中の技術者が集まり、具体的な方策を検討し提言を行います。当然のことながら、原子力の活用も重要なセッションの一つです。アメリカ、フランス、IAEAそして日本の技術者によるパネル討論を行いました。詳細はホームページを見てください。いずれの出席者も、原子力エネルギーの重要性を語り、温暖化防止には原子力が必要であるとの認識を示しました。
例えば、アメリカは、2050年頃には原子力発電を今の倍に増やす必要があるとの認識です。現在、シェールガスの価格が安くなっていることなどから、原子力発電所の廃止を決める電力会社も増えてきています。例えば、カリフォルニア州のディアブロキャニオン原子力発電所は、40年から60年運転へのライセンス延長をせずに、40年で廃止とすることになりました。カリフォルニアは地震が多いことと、風力発電などの再生可能エネルギーが比較的安価に手に入るということもあるようです。アメリカのパネリストは、現在運転中の原子炉を、40年、60年、80年で停止する場合、その減った分について、SMR(小型炉)やいわゆるGenIII+と呼ばれるAP1000, ABWR, APWRなどの新型軽水炉で担保する計画を示しました。ディアブロキャニオンのような経済性の課題をどのように克服していくのか、困難な状況にあります。
このような中で、2℃という非常に厳しい状況をクリアするには、化石燃料に頼らない社会の構築が必須になってきます。原子力発電を増やすのはもちろんですが、それだけでは焼け石に水です。できれば根本的なエネルギー改革、イノベーションが必要です。技術的なイノベーションの他にも、社会的なイノベーションも必要かもしれません。
ICEFの中では、新型炉である、FBR(高速炉)やHTGR(高温ガス炉)についての議論も行われました。これらの原子炉の特徴は、物理的に安全性が確保されるという受動安全性を備えていることです。「もんじゅ」と同様のナトリウム冷却高速炉は、自然対流という物理現象で原子炉が勝手に冷えますので、福島のようなことは非常に起こりにくいです。また、大洗にある「HTTR」と同様のヘリウム冷却高温ガス炉は、輻射という物理現象で原子炉が勝手に冷えますので、やはり福島は起こりません。このように、安全性が格段に高まった原子炉であるとともに、軽水炉に比べて高温の蒸気を作ることができます。
今、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料を使っているために大量の二酸化炭素が排出されています。日本の二酸化炭素排出量の割合を見てみると、電気を作る発電で40%、化学工業など産業用に27%、車などの輸送で16%です。たとえ、すべての電気を再生可能エネルギーと原子力で作ったとしても、残りの60%は減らすことができません。ではどうするべきでしょうか?
答えは「水素」です。水素を輸送用のエネルギーに使うこと、つまり水素自動車は、トヨタのミライで実現しています。また、石炭を大量に使う製鉄も、水素を使うことにより二酸化炭素を出さないようにすることができます。水素は電気分解でもできますが、石炭を燃やして作った電気で作るのは、効率が悪すぎますし、あまり意味がありません。原子力エネルギーで大量の水素を作ろうというプロジェクトが進んでいます。それが、高温ガス炉です。 数十基の高温ガス炉を作れば、産業用と輸送用の二酸化炭素排出量をほとんどなくすことができるという試算もあります。つまり、二酸化炭素排出量の約半分を占める産業用と輸送用を、安全な原子力エネルギーで置き換えることができるのです。電気だけではない、原子力熱利用によって、二酸化炭素削減に大きく貢献できるのです。世界の中で、日本の将来をしっかりと考えていきたいですね。
| CO2削減に向けて原子力による水素の活用を |
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