原子力なんでもQ&A(54) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2017年2月号54ページより転載

FLEXとは何ですか


福島第一原子力発電所の事故は世界中に大きな影響を与えました。二度と大事故を起こさないために、世界中で福島の事故分析が行われ、その対策が立てられています。最も重要な知見は、想定外があり得ることを想定して、可能な限りの対策をあらかじめ立てておくことです。日本でも、津波や地震の規模を大きくするなど、想定を大きくして対策を立てています。さらに、想定を超えた津波に襲われても、水密扉や予備の電源を多重に用意するなど、様々な対策も立てられてきています。

FLEXとは、このような想定外が起きたときに、とにかく炉心を冷やしたり、格納容器を守るために、多様で柔軟な対応をとることを目的とした、アメリカの電力事業者が作り上げた対策のことです。英語で柔軟を意味する、Flexibility の最初の4文字をとり、FLEXと名付けています。シナリオや想定を考えるのではなく、その場の状況を判断して、原子炉を守る戦略です。多様で柔軟な対応戦略(Diverse and Flexible Coping Strategy)とされています。

アメリカでは約100基の原子力発電所が運転されています。日本の倍ですね。これらの発電所が、ほぼ90%を超える設備利用率で発電を行い、アメリカの経済を下支えしています。これは、事業者と規制が、リスクを共通の評価基準として、常にリスクを下げることを目的に活動を進めていることの成果です。安全であるからこそ高い設備利用率が達成できるのです。

福島の事故は、アメリカでも大きなインパクトがありました。想定外の事象は起こりうることがはっきりしたことです。リスク低減という、不断の努力を継続するだけではなく、想定外に対応するための対策をしています。アメリカには、NEI(Nuclear Energy Institute)と呼ばれる、原子力発電所を運転する電力事業者の連合組織があります。名前だけ見ると、日本の電気事業連合会(電事連)に似ていますが、電事連とは全く違う組織です。ロビー活動もするのですが、それだけにとどまらず、事業者の自主的な原子力安全対策を積極的に推進しています。NEIが事業者の安全対策として、様々な標準を発行しています。この中には、テロを受けて強化されたセキュリティに関する対策や、福島第一事故を受けて強化された安全に関する対策など、多くの自主的対策を構築してきています。

FLEXは、福島事故を受けた事業者が自主的に進める対策で、NEI12-06 という文書番号で発行されています。2012年に発行された文書ですが、事故から1年間、真剣に議論を進め、規制当局であるNRCとも意見交換しながら、自主的な安全向上戦略として提案されています。NRCは規制側として、NTTF(Near Term Task Force)の要求を2011年夏にまとめていますが、それに対する事業者側からの回答の一つにもあたります。

発電所のリスクを低減する活動を継続的に進めていくだけではなく、それでも起こり得る、想定外に対処するために、柔軟な対応を行うことを目的としています。冗長性を高めるために、多数のモバイル装置を準備しておくことが中心的な考え方です。想定外の地震や、想定外の電源喪失など、どのような場合にも、炉心を冷やすことができるような機材をあらかじめ発電所敷地内に準備しておきます。主として、低圧電源車、高圧電源車、高圧ポンプ、低圧大容量ポンプ、電源盤、照明、配管、電気ケーブルなどなど、いざというときに、原子炉や使用済み燃料プールを冷やすための様々なモバイル機器を準備します。複数の機器を位置的にも離れた場所に準備することで、同時にこれらの機器が使えなくなることを防ぎます。 このような対応は、日本の原子力発電所でもとられています。非常に多数の電源車やポンプが発電所のあちこちに置かれています。アメリカも同様の対策がとられているのです。さらに、アメリカでは、後述のように、発電所外からのバックアップサポートとしてSAFERも考えられています。

Q:SAFERとは

通常、発電所で何かトラブルがあると、もともと備わっているECCSなどの安全装置が動き、原子炉の冷却が行われ安全が保たれます。しかし、福島のように想定外の事態が起こることを否定できません。想定外の起こる確率は、十分に小さく抑えられていますが、それでも想定外を想定した対策を考えておくことが福島の教訓です。このような事態には、まず、原子力発電所にあらかじめ準備されているFLEX対応機器で対応します。原子炉に水を入れて崩壊熱を冷やすことが最大の目的となります。前述のような発電所にあるFLEX機器で対応します。

さらに、想定外の大大地震などによって、発電所のFLEX機器が使えなくなる可能性も考えて、所外からの対応も考えられています。これが、SAFERです。SAFERは事業者連合が独自に準備しているバックアップ基地です。

フェニックスとメンフィスにある2つのSAFER基地から、24時間以内にバックアップのための機材が発電所に空輸されます。ここには、1つの予備品を含めて合計5個ずつの機器が保管されています。480V電源車が5台、高圧注入ポンプ車が5台、電気ケーブルが5セット、軽油タンクが5個など、様々な機器が、いつでも出荷できるように、トレーラの上に載った状態で、空調のしっかり管理された大きな倉庫の中に保管されています。

これらのFLEX機器は、ヘリコプターや飛行機で輸送することを考えて、重量は8000ポンド(3.6トン)以内、かつ、サイズの制限があります。つまり、一般的な発電機やポンプは使えず、発電機メーカやポンプメーカが、この要求に合うよう発電機やポンプを新しく設計して製作しています。例えば、発電機は、ヘリコプターのジェットエンジンを改良しコンパクトにしたものだそうです。また、重要なことは、これらの電源やポンプをつなぐためのケーブルコネクタやホースコネクタが、米国内ですべて統一されているということです。SAFERにおいてある機器を持っていけば、そのまま使えるということです。

すべての発電所ごとに必要なFLEX機器があらかじめ決められており、発電所から緊急事態の連絡があるとすぐに輸送準備が進められます。輸送は、輸送のプロである輸送業者と契約がなされており、アメリカ中の発電所にタイムリーにFLEX機器が送られます。2か所あるということで、どちらかの空港が封鎖されていたとしても、他の空港から輸送ができます。民間のヘリコプター会社とも契約がされていて、30マイル圏内の輸送は空輸ができるようになっています。最後は、軍による輸送も想定されています。SAFERは民間事業者なので、国の機関であるNRCが、同じく国の機関である軍との連携の下で対応をとることになっているそうです。想定外の事態でも、基本的には発電所と発電所内FLEX機器で対応しますが、それでも足りない場合は、オールアメリカで対応するという、何重にもバックアップを考えています。SAFERを作り上げるだけで、大変な努力をしています。

Q:日本ではどうなのでしょうか

日本では、発電所ごとに準備するFLEX機器は同じようにそろっています。しかし、SAFERはありません。発電所内までにとどまっており、万一、発電所内の機材が使えなくなった場合のバックアップは考えられていません。また、コネクタも統一されていないため、他の発電所からのFLEX機材を応援に使うことも困難です。アメリカでは、統一できているのですが、日本では、どのようなコネクタが使われているのかの情報さえ共有されていません。これは、福島第一で電源車がつながらなかったという重要な反省事項を、日本では十分に対応できていないということで、大変残念なことです。

バックアップのバックアップを考えて、所外の2か所に合計10個づつのバックアップを揃えているアメリカの対策に頭が下がります。想定外に対処するという、非常に積極的な姿勢を感じます。実は、日本でもSAFERを作ることを、事業者の方々には、ここ数年、ずっと進言しているのですが、各発電所にあるから大丈夫だという答えが返ってきます。規制が要求するからではなく、事業者がどのように安全に向かっていくかの戦略をしっかり提示してほしいです。日本にもNEIが必要だと強く思います。

米国の電気事業者が作り上げた対策

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