原子力なんでもQ&A(56) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2017年4月号52ページより転載

福島第一2号機のロボット 調査で何がわかったのですか


今年1月から2月にかけて、福島第一原子力発電所2号機の格納容器内に、カメラやロボットが投入されました。新聞に書かれているように、残念ながら、自走式のサソリロボットは、レールの上で動けなくなってしまいました。しかし、その前に投入された、レールの上のごみを高圧水で吹き飛ばす、お掃除ロボットや、スマホの自撮り棒のような、棒の先についたカメラなどによりかなりの情報が得られています。これらの画像は、東京電力のホームページに公開されていますので、世界中の方が見ることができます。英語ページにもすぐに公開されています。

これらのデータから、何が起こっていたのか、燃料の現状はどうなっているのか、格納容器の中はどんな状況なのかなど、様々な情報を推理していきます。これは、ちょうど探偵推理小説のようなもので、断片的に得られた複数の情報をつなぎ合わせ、何が起こっていたのかを考える作業になります。推理小説は、読み進めていけば答えが書いてありますが、福島の推定は、まだまだ情報が足りません。いくつもの簡単には説明のつかないデータも得られています。

例えば、溶け落ちた燃料が落下していると考えられる中心部分のペデスタルと呼ばれる部分の放射線量は毎時20シーベルト程度なのに対し、ペデスタルの外側で毎時200シーベルトという10倍も高い放射線量が観測されました。普通に考えれば、燃料に大量の放射性物質が含まれていますので、溶け落ちた燃料のあるペデスタルの内側が高くて、外側は低いように思えますが、その逆になっていました。 ペデスタルの内側では、溶け落ちた燃料が固まっているように見える画像も得られました。冷却水が雨のように降っていますが、燃料はよく冷えているように見えます。一方で、大量の水蒸気がモワモワと、下から上がってきています。

溶融燃料が溶け落ちたとみられる部分のグレーチング(網目状床)は一緒に落ちています。水蒸気はこの部分から上がってきています。しかし、燃料が落ちたらしい部分以外のグレーチングも落ちています。ここからは、水蒸気は上がってきていません。

この部分の上のほうに見える制御棒駆動機構(CRDM)などの構造物には、何かが固まっていて、2000度近い溶けた燃料が落ちて固まったようにも見えます。しかし、そのCRDMのすぐ隣にあるCRDMは健全です。また、200度くらいで溶けると考えられるケーブルの被覆も溶けていません。

一方で、ロボットを投入した格納容器の入口の壁近傍では、ケーブルが溶けている画像が見えました。ペデスタルの中よりも、格納容器の壁のほうが温度が高いのでしょうか。

ロボットを投入しようとした斜めのレールの上にも、何か溶けていた物質が固まったようなものが積もっています。これがゴツゴツしていて、ロボットは動けなくなりました。一方で、お掃除ロボットで高圧水をかけると、ペラペラと剥がれて飛ぶ様子も見えています。ここがペデスタルの外側で、高い放射線量が計測された場所になります。

Q:これらから推理すると

さて、これらの断片的な情報から推理をしていきましょう。なお、ここから先は、筆者の推理ですので、まだまだ間違いだらけである可能性のほうが高いことに留意してください。まず、原子炉の真下にあたるペデスタル内側と、ペデスタルの外側の情報は分けて考える必要があります。事象の起きた時間帯もずれていると考えたほうが分かりやすいでしょう。

分かりやすいペデスタルの内側から考えます。事故の直後に、燃料は溶け落ちて、原子炉容器の底にたまります。消防車などで一生懸命水を入れていますので、溶け落ちた燃料は原子炉容器の底で、発熱しながら冷やされています。原子炉容器の底には、制御棒駆動機構や計測装置を挿入する管など、多数の管が溶接されています。この溶接部は、容器本体よりも弱いため、高温の燃料によって壊れ、そこから一部の燃料が溶け落ちました。

溶融燃料は、溶岩のようなものですが、思いのほかさらさらしています。ハワイのキラウエア火山の溶岩のように、サラサラ流れ落ちていきます。一部が冷たい制御棒駆動機構などにくっついて固まりますが、その量は多くありません。

溶け落ちた燃料は、あまり多くなく、グレーチングを溶かしながら、ペデスタルの底まで一気に落下します。ペデスタルの底はコンクリートなので、そこで、コンクリートを溶かしながら冷えて固まります。ペデスタルの底には水も溜まっていたと考えられるので、やはり固まります。ちょうど、溶岩が海に流れ込んだ感じです。

水は蒸発して蒸気になりますが、その空間の温度は、水の沸騰する温度以上には上がりません。格納容器内は最大0.7MPa程度まで圧力が上がっていますが、溶け落ちたころの格納容器内の水の沸点は180度程度なので、ケーブルは溶けずに残ります。もし、5%くらいの燃料が落ちているとすると、今現在の発熱量は3kW程度です。ホットプレート3つ位がペデスタルの下にあり、その上に雨が降っているので、モヤモヤと蒸気が上がっていると推定することができます。

次にペデスタルの外側、格納容器の中を推定します。いつ、温度が上がったかですが、燃料がペデスタルに落ちる前と後の2ケースが考えられます。

まず、燃料が落ちる前を考えます。炉心の燃料を冷やせなくなり、高温になって原子炉が溶け始めると、この燃料で高温となった蒸気が原子炉容器内にはあります。この蒸気は、安全弁を通って、サプレッションプール内に噴出しています。数百度の過熱蒸気になることも考えられます。このとき、設計よりもはるかに高温の蒸気のために安全弁が壊れると、この高温の蒸気は格納容器内部に噴出します。この蒸気には、もともと燃料の中にあったセシウムなどの放射性物質が大量に含まれています。安全弁を囲んでいた保温材を溶かし、ケーブルの被覆を溶かします。

これらの溶けた保温材や被覆が重力で落下して、レールの上に堆積します。保温材はセシウムを吸着しやすい材質であったとすると、大量のセシウムがレールの上に堆積します。今回の毎時200シーベルトは、この時の堆積したセシウムと推定されます。ただ、問題は、高温の蒸気が充満しているのに、なぜかペデスタル内部のケーブルは溶けていません。外側だけ溶けて内部は溶けていない。このミステリーはまだ解決できません。

次に燃料が溶け落ちた後を考えます。この後も格納容器は何回か高温になっています。特に、格納容器の上蓋付近は、蒸気が漏れていったと考えられていて高温になりました。原子炉容器の中に溶け落ちている燃料もまだ発熱しているので、高温になりますが、重力の影響で、高温の蒸気は上のほうに流れて、上のほうばかりを過熱します。このため下側のペデスタルは温度が低い状態と推定します。

一方で、原子炉容器の外側はコンクリート製の遮蔽があるため、原子炉容器が高温になっても、格納容器には直接熱は伝わりません。よって、上側ばかりが高温になります。この高温蒸気にも大量のセシウムが含まれているので、上側にあるケーブル被覆や保温材を溶かして、それがレールの上まで落ちてきていると考えられます。この場合は、格納容器の全周にわたってセシウムを含んだ溶融保温材が降ったと想定されます。

また、格納容器は鉄製ですので、上の高温が時間をかけて徐々に伝わり、今回ロボットが投入されたあたりも高温になり、壁近傍が選択的に高温になったとも考えられます。まだまだミステリーです。

もっと情報が必要です。今回、自走ロボットよりも自撮り棒の先のカメラが大活躍しました。いわゆるローテクです。作業員の方の被ばくを少なくしなくてはいけませんが、自撮り棒の設計を考えて、自撮り棒方式を進めていくことや、過去にも実施した胃カメラ方式(光ファイバーカメラ)も重要かもしれません。

推論の幾を出ずミステリーはまだ解決できない

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