原子力委員会とは、原子力基本法において定められている組織です。第4条において、「原子力利用に関する国の施策を計画的に遂行し、原子力行政の民主的な運営を図るため」に設置すると書かれています。第5条には、「原子力利用に関する事項(安全の確保のうちその実施に関するものを除く。)について企画し、審議し、及び決定する。 」とその任務が書かれており、「原子力利用に関する事項」を「決定する」という重大な役割があります。
資源が少なく、そのエネルギーをほぼ100%輸入に頼っている日本において、将来にわたりエネルギーを確保していくための政策が、日本人の生命や安全に大きくかかわってきます。つまり、20年50年先の将来に向けた日本のエネルギーに関する施策を計画的に遂行するため、原子力利用について企画し決定することが求められています。過去には、原子力委員会が日本の原子力利用の将来を決定する大きな役割を担っていましたが、福島第一原子力発電所事故後には、その役割はほぼなくなりました。 原子力基本法の条文そのものは、事故の前後でほとんど変わっていないのですが、原子力利用を含めた、エネルギーに関する重要な「国の施策」は、経済産業省を含めた政府が決定しています。原子力委員会は、政府の決めた「施策」に関連した審議を行うだけの2次的な機関になってしまいました。 例えば、昨年末、政府が決定した、もんじゅ廃炉に関する重要な「国の施策」についても、意思決定にほとんど関与していません。福島第一原子力発電所事故前には、原子力利用に関する重要な施策、例えば、高速炉開発に関する意思決定を原子力委員会がしていたことなど既に誰も覚えていないでしょう。平成18年に、今後の高速炉開発に関して、具体的な担当省庁や、日本原子力研究開発機構、電気事業者、製造業者を明示して、役割を含めて基本方針を「決定」しました。この方針に従い、高速炉開発が進められてきていました。
福島第一原子力発電所事故を受けて、経済産業省原子力安全・保安院が、名前を変えて、原子力規制委員会ができました。原子力委員会から分離してできた原子力安全委員会が行っていた仕事は誰もやらなくなりました。一部、原子力規制委員会が引き継いでいますが、原子力行政のチェックを行うという役割を担う機関が全くなくなり、原子力規制委員会の暴走をだれも止められなくなっているのは、皆さんもよくご存じの事実です。現場を知らない原子力素人によって、日本中の原子力発電所のリスクが高まっています。
さて、原子力委員会は、事故の後、5人の定員が3人に減りました。法令上の位置付けは変わりませんが、仕事がほとんどありません。このように、法令で位置づけられた組織ですが、まったくと言っていいほど役に立っていない組織が存在するのは、政府および立法府の問題だと思います。なお、本来、経産省がやらなければならない、高レベル廃棄物の処理処分など、国民に人気のない政策で、また意思決定が非常に困難な作業を原子力委員会に押し付けています。経産省の安全弁として働いているだけです。
実は、このように原子力委員会を骨抜きにしたのは、原子力利用を止めることを意図していた旧民主党政権(当時)です。国会が原子力委員会を骨抜きにしました。自民党政権は、気が付いていないふりをして、国民に人気のない原子力を、ほおっているだけです。
立法府としての国会は、法令で原子力委員会を位置づけていますが、実際には、ほぼ意思決定には関与していません。「原子力利用に関する事項について企画し審議し決定する」のであれば、昨年度のもんじゅについても重要な立場であるはずです。しかし、残念ながら、もんじゅの意思決定を行う委員会は、経済産業大臣、電力業界代表、原子力プラントメーカ代表、文部科学大臣、日本原子力研究開発機構理事長という5名で構成されました。本来であれば、原子力委員会が議論すべきものであり、少なくとも原子力委員会委員長がメンバーとして参画すべき話です。完全に蚊帳の外になりました。
従来、高速増殖炉の開発については、文部科学省と経済産業省が分担しつつ開発を進め、原子力委員会がオーソライズする形でした。原子力委員会が大きな方向性を決め、その方向性に従って日本国での意思決定が進められてきていました。もんじゅはあきらめるけど高速炉開発を続けるという意味の分からない決定をしたのは、ある意味、高速増殖炉に素人の経産省です。
これを予算の分捕り合戦の観点からみるとわかりやすいです。経済産業省はもんじゅというお荷物を引き受ける気は毛頭ありません。しかし、核燃料サイクルおよびそれに付随する高速増殖炉開発に関する膨大な予算と権益を手放す気もありません。この両方を満足させつつ、経産省の予算を確保することが目的関数化され、選挙に勝つことが目的の政府と利害関係が一致しただけです。このため、もんじゅを止めたことで、国民の多数を占める原子力に懐疑的な票に配慮するとともに、高速炉開発を継続することで、経産省の予算確保に配慮するという意味の分からない決定をしています。原子力委員会は、一切何の影響力もありませんでした。
簡単なのは、原子力委員会を廃止することです。今の業務であれば、経産省で十分に担当できます。権限を持たず、限定された意思決定しかできない無駄な行政府は意味ありません。立法府の怠慢でしょう。旧民主党政権の置き土産としての原子力委員会を自民党がサボっているだけです。
本来の形、もしくはもっと大きな形に改編することも意味があります。原子力大綱のような、20年50年先を見越した原子力利用に対する大きな方針を出すことを業務に戻すべきです。今の政府は、4年毎に必ずある選挙のため、非常に短期的な視点からしか方針が出せません。エネルギー開発は、5年から30年という長期の期間が必要になります。足りなくなってからでは遅いのです。エネルギー不足によって、何万人もの日本人が亡くなります。しかし、そのような事態が起きたときには、今の国会議員は皆リタイヤしているので、責任を取らなくて済みます。政府の機関として、原子力委員会が長期的な展望を含めて審議し決定するべきです。
ただ、原子力委員会から先般出された高速炉開発に関する提言は、あまりにも傍観者で、かつ長期的視点が全く見られない、変な文章でした。このような対応は、経産省や政府に任せて、もっと長期的な視点からの原子力利用に関する展望を決定すべきです。今日大丈夫だから、明日もきっと大丈夫である。お金がかかる投資はやめて、今を生きることがよい、と言っているのであれば、小学生でもできますし、政府や国会に任せておけばよいのです。すみません。小学生に失礼でした。
原子力委員会がしっかりしないと、大変な問題が起きます。先日、品質保証の問題で、核燃料サイクルの要である日本原燃が原子力規制委員会に怒られました。国民の生命を守るために重要な安全の問題ではなく、文章の解釈の課題です。リスクは高めても、書かれている文章の解釈を巡った問題でした。
もんじゅを壊すことに成功した規制委員会が、次のターゲットとして日本原燃を狙っていることは明らかです。安全の本質とは違う重箱の隅を突っついて、揚げ足を取ることで、核燃料サイクルを止める意図が明らかです。今のままでは、もんじゅの二の舞になります。まぁ、今の規制当局の間違った判断が効いてくるのは、40年後なので、委員の方々はいらっしゃらないと思います。年金と同じように、今の若者が割を食らうのでしょうね。
このような謀略に対して、原子力委員会はただ見ているだけです。政府の高速炉開発にごちゃごちゃ文句を言うよりは、リスクの観点から、原子力利用に関する審議を行い、規制のより適正化を図ることを提言するほうがよっぽど必要かと思います。原子力委員会に期待できないので、地方自治体である県が原子力規制委員会の暴走を止める役割を担うのかもしれません。
| 長期的な視点から展望を決定すべきもの |
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