原子力発電所の一生を考えると、発電所の計画が策定され、建設が進み、試運転を経て運転が開始されます。40年、60年、海外では80年といった、長期間にわたって原子力発電所の運転がなされていきます。最終的には、発電所の寿命がきて廃止措置が行われます。安全に発電所を壊し、別の発電所を建てたり、別の用途のための土地として活用されていくことになります。
日本においては、JPDRという小型の沸騰水型軽水炉(BWR)が、すでに廃止措置を終えています。この原子力発電所は、茨城県東海村の原子力研究所(現日本原子力研究開発機構JAEA)に設置された日本で最初に発電を行った原子炉です。現在運転されている原子力発電所の経験を積むことや、ちゃんと運転ができることを実証するために作られました。
JPDRのDはDemonstrationの略で、実証することが目的でした。この原子炉は1976年には停止され、1995年までに廃止措置が終了しています。JPDRは運転の実証に活用されただけではなく、廃止措置の実証にも活用されました。原子炉回りは、大量の放射性物質がありますので、遠隔操作を使ったりしながら安全な廃止措置が実施されました。日本でも原子炉の廃止措置はときちんとできることを実証しています。
しかしながら、すでに廃止措置終了から20年以上が経ち、廃止措置を実施していた経験者の方々は多くがリタイヤされています。JPDRの廃止措置の実証経験を、次世代につないでいくことも重要です。日本原子力発電株式会社の東海原子力発電所や、原子力研究所のふげん発電所が廃止措置を進めており、また、軽水炉としても浜岡原子力発電所1号機2号機が廃止措置を進めてきています。
日本の原子力発電所では廃止措置の経験はまだあまり多くありませんが、廃止措置と類似の作業は、運転中にも数多く経験しています。例えば、放射線の線量が高い配管の除染を行い、配管の線量を小さくする作業は、廃止措置では必ず実施しますが、通常の定期検査の時にも実施されることがあります。定期検査では、作業員の方がこれらの配管のそばで作業することもあり、無用な被ばくを防ぐために、除染の手法が確立されています。定期検査で使われる手法を、廃止措置にも応用が可能です。
また、40年60年と運転していると、機器が故障したりします。安全を見て、壊れる前に早めに機器を交換することも多くあります。例えば、蒸気発生器と呼ばれる非常に大きな機器を交換する作業は、数多くの運転中プラントで実施されてきています。検査で見つかったひびを補修することも、運転中プラントで実施されています。これらの交換作業では、配管を切ったりしますし、補修溶接をすることもあります。このように、廃止措置で実施される作業と、運転中にいろいろ実施される作業は、ある程度共通点があります。全く新しい技術を開発するということはたまにありますが、従来技術の延長で廃止措置は実施されます。これはJPDRの廃止措置でも実証されています。
上記のように、原子力発電所の廃止措置は、既存の技術を組み合わせて順番に適用していくことで技術的には可能です。しかし、どんどん壊していきますので、毎日のように現場の状況が変わっていきます。間違えて壊してはいけないものを壊してしまうといったことや、順番を間違えて廃棄物の物量が大幅に増えてしまうといったことが起きると大変に困ります。このため、廃止措置はプロジェクト管理、マネジメントが最も重要です。ある意味、ゼネコンやエンジニアリング会社が得意な分野です。放射性物質を扱うという特殊事情がありますが、発電所の運転などとは全く異なります。マネジメントを確実に遂行することで、安全な廃止措置が可能になるのです。
廃止措置がプロジェクトマネジメントであるということを踏まえたうえで、廃止措置の重要な視点は3つあります。@人材、A予算、B放射性廃棄物です。
原子力発電所の廃止措置は、マネジメントであるといっても、中に入っているものがやはり特殊です。大量の放射性物質を保持しています。これらの放射性物質を安全に管理しつつ、壊していくことになります。壊すのはゼネコンですが、放射性物質の管理は、やはり発電所で運転や保守を実施してきた人材が必須です。それまで自分が面倒を見てきたプラントの運転経験、保守経験を生かして、安全な廃止措置を実施するという新たなモティベーションをもった人材が必須です。マネジメントを理解し、納得して廃止措置に関わる、発電所経験者です。放射性物質を内包していますので、廃止措置自体は簡単ではありません。マネジメントの視点から、どのように壊していくのかを設計し実行していく人材が重要になります。
廃止措置がマネジメントであるということは、そのための予算の確保が必須です。10年から30年という時間をかけて壊していきますし、廃止措置自体で利益を出すことはありません。過去の電力や研究成果という利益を生んだ原子力施設を壊すために、予算を積んでおくことが必要になります。普通の原子力発電所では数百億円程度と見積もられていて、運転中に積み立てられています。発電所が1年運転した場合の利益程度です。また、予算を積んでおくということは、廃止措置を円滑に進めるうえで重要です。ある年はほとんどお金がかからないけど、ある年はドサッとかかるということがありますので、予算が年によって大きく変動しますので、あらかじめ積み立てておく必要があるのです。
そして、最も重要なのは、壊した後に出る放射性廃棄物の処分です。これらの放射性廃棄物は低レベル廃棄物と呼ばれ、短いもので50年くらい、長いものでも数百年おいておけば放射性物質でなくなってしまう、という特徴を持っています。いわゆる高レベル廃棄物を地中深くに埋めるのに対して、低レベル廃棄物は比較的地上の近くに埋めることで、十分安全が確保されます。しかし、残念ながら、これらの低レベル廃棄物の処分場が、日本ではまだ十分に確保されていません。
例えば、スペインでは、低レベル廃棄物処分場を持っており、数多くの原子力発電所を解体し、放射性廃棄物は処分場に埋設し、発電所のあった場所を、活用すべく作業が進んでいます。アメリカでも、どんどん廃止措置が進んでいるのは、低レベル廃棄物を処分することができるためです。日本でも、低レベル廃棄物の処分場をしっかりと準備することが重要です。鉛やカドミウムといった汚染物質は100年たってもなくなりませんが、放射性物質はどんどんなくなってしまいます。このような特徴を捉えて、安全な処分場を準備することが重要でしょう。
廃止措置の肝は人材、予算、低レベル放射性廃棄物処分場です。もんじゅや再処理施設の場合、人材が問題でしょう。ついこの間まで、運転を行うために努力してきたのが、国の方針で突然廃止措置です。JAEAは国立研究機関ですから、研究のプロはいても、マネジメントのプロはいません。職員のモティベーションが最悪と思われますので、安全な廃止措置を行うためには、今のままではだめだと思います。また、国の研究機関ですから、予算も重要です。利益を生まない、廃止措置というプロジェクトに対して、大規模な予算を基金のような形で確保しなくてはなりません。そして処分場が課題です。もんじゅはほとんど運転していませんので、放射性物質は格段に少ないので、処分を考える上ではメリットです。しかし、再処理施設は、核燃料を取り扱っていましたので、処分場が大きな課題になると思われます。
廃止措置を決定したのは政府や経産省ですから、政府が廃止措置をマネージする責任があります。一方で、規制委員会は、廃止措置素人ばかりのため、例によって先送り行政を推進しているようです。日本はプロジェクトが苦手なのですが、なんとかしないと。
| 人材、予算、処分場の手当てが課題に |
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