原子力なんでもQ&A(59) 

岡本孝司

エネルギーレビュー 2017年7月号54ページより転載

常陽とはなんですか?


昨年末に、日本政府は高速増殖炉原型炉「もんじゅ」を廃止することを決定しました。ほとんど成果を出すことなく、廃止となりましたが、2つの大きな懸念があります。

1つは、現在の素人だらけの規制委員会のもとで、安全に燃料を取り出せるのかどうかということです。燃料取り扱いはある意味、運転中よりも危険な作業になります。つまり、規制委員会はこれからもんじゅを運転中と同じ状況にさせなくてはなりません。もんじゅには運転できる実力がないと言っておきながら、運転させなければならないという、矛盾状態になります。まずは、もんじゅに運転(燃料取り出し)ができるだけの実力があるということを規制委員会が認めないと危なくってしょうがありません。国は地元にリスクを押し付けてしまいました。

2つ目の懸念は、核燃料サイクルが大きく遅れるということです。日本は人口が減り始めていますが、世界はどんどん人口が増えていきます。インドや中国などが、ますます経済発展して、エネルギーが足りなくなることが確定しています。今の日本人はエネルギーが足りていますが、30年後50年後の日本人が、エネルギー問題で窮地に立つのはほぼ確定的です。このため、核燃料サイクルを確立すべく準備をしてきていたわけですが、その中核となるもんじゅがなくなってしまいました。核燃料サイクルを熱心に進めているのはロシアやインドです。ロシアは現在、天然ガスを大量に算出しているのですが、それでも将来に備えて核燃料サイクルを進めています。インドも経済発展を見越し、また、自国内で大量に算出されるトリウムを使った核燃料サイクルへの準備を始めています。

日本政府は、もんじゅの替りに、「常陽」や「アストリッド」を使って開発を続けると言っています。アストリッドはフランスが検討中のものですが、地震の多い日本では、使い物になりません。日本国民の税金を、フランスのために使うという素晴らしい政策です。

「常陽」は、もんじゅなどの高速炉開発に先駆けて、1977年に茨城県大洗町に設置された実験炉です。40年以上にわたり安全に運転されていますが、10年程度前に、装置にトラブルがあって、東日本大震災の時も止まっていました。この「常陽」を使って、高速増殖炉の目的である、燃料(プルトニウム)が増殖できることや、高速中性子による材料の影響など、様々な実験が実施されてきました。もんじゅなき今、新しい材料などを検証するために、常陽をさらに活用しようということです。残念ながら、出力が小さいので、大型高速増殖炉の安全性を確認するための実験は困難です。

ロシアはBN-800という電気出力880MW(熱出力2100MW)の高速増殖炉を運転中です。ロシアは、これからも運転経験を積み重ねていくので、熱出力が100MWクラスと1桁以上小さな常陽では、太刀打ちができないでしょう。しかし、100MWクラスであっても、日本国内に高速増殖炉があるということは、将来に向けて非常に重要です。プルトニウム燃料の挙動など、数多くの知見を得ることができます。世界と科学技術分野で競争していくためには、国内に高速増殖炉を持っていることが非常に重要になります。

Q:新規制基準対応は

原子力規制委員会は、福島第一原子力発電所の事故を踏まえて、想定外をなくすことを基本戦略とした新規制基準を作りました。世界で最も厳しいと言っていますが、それは、想定が厳しいだけで、リスクとは関係ありません。「想定外」には、「想定」の外側という意味と、「想定」できない(思いもよらない)の2つの意味があります。規制委員会が頑張っているのは、前者だけです。先日の常陽審査会合で、規制庁の審議官が、「新規制基準とは福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえたものでありますので、要は想定しなかったということは避けましょう。ですから、とことん厳しい事象というのを考えていきましょう」という発言をされています。この考え方は、2つの点で、大きなリスクを導入しています。

まず、福島の重要な教訓は、「人間の想定には限りがある」ということです。思いもよらないことが起こり得ることを考えて、対処する方法を検討しておくことが重要なのです。福島では、一切の法令違反や、保安規定違反はありませんでした。しかし事故を招いています。保安規定をいくら守っても、事故が起こるときは起きるのです。それは、人間は神様ではないからです。マニュアルを守ること、新規制基準を守ることだけを墨守していると、また福島が起きます。リスクを適切に考慮し、発電所の経験値を上げ続けることでしか対応できません。

また、厳しい事象を考えて対策をとると、100万年に1回の事象は対応できますが、毎日の保全活動や、運転にリスクを導入することになります。かたや毎日ですから、積分すると無視できないリスクになります。規制委員会は、リスクを分かっていませんので、100万年に1回の事象に対応できることで満足します。一方、事業者は、規制のために増えてしまった毎日のリスクを低減するように努力を重ねる必要があります。結果として発電所は少しだけ危険になります。規制庁の思い付きの事象だけを厳しくすることはリスクを招きます。リスクを考慮した安全規制に早く移行してほしいと思っています。

Q:常陽の審査はどうなっていますか

常陽は現在、許可されている熱出力は140MWです。しかし、これを100MWに設置許可変更をして、申請を行いました。原子炉内の高速中性子をあまり下げずに、かつ、安全に余裕を持たせるためです。また、緊急時の防災の範囲として規定される、緊急防護措置を準備する地域(UPZ)の考え方が変わったことに対応することも理由です。従来は8kmの範囲でした。今回の指針改定では、研究炉としては100MWまでしか規定がなく、それも5kmと短くなっています。このため、研究炉である常陽は100MWにすることにならざるを得ません。または、3000MWクラスの発電炉の規定を準用してUPZを極度に大きくとらざるを得ません。法律の不備ともいえるかもしれません。

熱出力は、設置許可申請書で許可を要する重要事項です。通常は、計測制御系の不確かさを考慮して、2%程度大きめの出力であっても安全性が確保されることを確認します。100MWで運転を行うものを、40%大きめの出力(140MW)で安全性を確保するので、安全性の評価はさらに大きな余裕を見ています。

ところが、新聞でも報道されましたが、規制委員長はこの姿勢をおかしいと批判しています。「ナナハンを時速30kmで運転するので、原付で評価してくれと言っているようなものだ」と言ったそうです。これは、まったくの間違いです。ナナハンを時速30kmで運転するのですが、原付ではなく、ナナハンの規則で評価するのです。ナナハンで審査して、その上で、時速30kmで走ると言っているのです。安全設計と防災を完全にごっちゃにしています。防災指針のUPZは100MW運転時の核分裂生成物量を目安に決められています。その目安に合わせるために、100MW以上では運転しないことを設置許可申請書で約束するということです。

原子力規制委員会は、先ほどの審議官をはじめとして、安全の考え方を間違えている方が多いのですが、委員長からして理解されていないということなのでしょう。1ドル110円が100円になったから円安だといっているのに近いです。困ったものです。

なお、説明する側の日本原子力研究開発機構も問題です。「UPZが小さいほうが、再稼働が早くなるので出力を落とした。」と言っています。これは目的と手段が逆転しています。規制庁を説得するつもりがないのではないかと疑いたくなるような説明です。改正された指針が100MWまでしか研究炉について定義していないため、そこに合わせざるを得ないということなのです。法治国家ですから、法律に従っていることは前提ですが、なんとなく法律の抜け穴を通ろうとしているような説明の仕方です。これでは、素人は馬鹿にされたと思ってもしょうがありません。技術論の前に、素人相手であることを再確認すべきでし ょう。

『もんじゅ』なき後の小出力実験炉

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