新潟県柏崎市の市長さんが、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働にあたり、集中立地のリスクを低減するために、1号機から5号機のうち最低1基については、廃止措置を進めることを東京電力に要望したとのニュースがありました。いわゆる廃炉ビジネスに、柏崎市の企業が参入しやすくすることを目指しているとの説明もありました。
結論から申し上げますと、廃炉ビジネスは産業として成り立ちません。結果として、柏崎市はますます過疎化が激しくなるだけです。集中立地による事故のリスクは確かにゼロではありませんが、廃止措置を進めることによって、多くの地元企業が、ほぼ確実に倒産するので、まともに考えれば、どちらのほうが地元や日本国に効果があるのかは、火を見るよりも明らかです。 しかし、原子力発電所のリスクを非常に大きく感じている国民や柏崎市民にとっては、産業がなくなり、地元が廃れる選択することはあってもおかしくはありません。人間というのは、合理的な判断はなかなかできませんので、仕方がないのかなとも思います。
廃炉というと、原子炉の廃止措置を指すと考えてよいと思います。一方で、原子力の分野で、廃止措置というと、原子炉だけではなく、核燃料サイクルのプラントや、核燃料を扱う実験施設なども含めた廃止措置になります。その中でも、特に、事故を起こした福島第一原子力発電所の廃止措置を廃炉と呼ぶことが多いようです。
例えば、東京電力が設置した福島第一の廃止措置マネジメントを担当する部署を、「福島第一廃炉推進カンパニー」と呼び、プレジデントがこのカンパニーを統括しています。また、国における、福島第一の廃止措置戦略を検討する機関も、「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」という名称です。 一方、事故を起こしていない原子炉も廃止措置を行います。浜岡1号機や敦賀1号機など、7基の発電用原子炉が廃止措置を進めています。これらも、原子炉の廃止措置なので、新聞などでは廃炉と言っているものもあります。しかし、原子炉等規制法の中には、廃炉というキーワードは出てこず、廃止措置で統一されています。
原子炉が廃止措置段階に入るためには、「廃止措置計画」を提出し、原子力規制委員会による認可を受けなくてはなりません。なお、原子炉以外の原子力施設も同様です。廃止措置が法律で決められている用語で、広い概念であるのに対して、廃炉は福島第一の廃止措置、もしくは、より一般的に用いられているキーワードということになります。
さて、廃止措置(廃炉)がビジネスになるかどうかについて考えていきたいと思います。原子力発電所の一生を考えます。建設には、3000億円程度のお金がかかるといわれています。地元には建設に伴い、非常に大きなお金が落ちます。
運転が開始されると、出力にもよりますが、1基あたり毎年500〜1000億円の売上があり、そのうちのかなりの金額が地元経済を潤します。それが5基も6基もあると、すごい金額になっていきます。この金額が毎年あることを覚えておいてください。なお、近年は、再稼働をするために、安全性を向上させる目的で、発電所によって違いますが、500億から3000億円というお金を投資しています。
廃止措置においては、電気を売ることはできませんので、原子力発電所を運転中に廃止措置にかかるお金を少しずつ積み立てる仕組みがとられています。この積立金が1基あたり約600億円程度になります。廃止措置は30年程度という長期間かかりますので、総額が600億円としても、毎年かかる経費は高々20億円程度です。単純に考えて、廃止措置中の原子力発電所は、ほとんどお金がかかりませんので、中小企業並みになってしまいます。
運転や再稼働準備で考えられる年1000億程度の経済規模に比較して、廃止措置は年20億程度ですから、非常に小さなパイです。これでは、産業を活性化させるのは、むずかしそうですね。柏崎市にある4基全部廃止措置をしてもたかだか80億円です。柏崎市の予算規模である900億円と比較しても、全く規模が違います。
日本原子力研究開発機構が、福井県にあるふげん発電所の廃止措置を決めた時には、廃止措置に関する研究を行うということを前面に打ち出していました。地元の敦賀市も、廃止措置で新しい産業が興ることを期待されていました。すでに10年経過していますが、ふげん発電所の廃止措置は停滞しており、廃止措置に係る大きな産業は生まれていません。
6月号でも議論しましたが、原子炉の廃止措置は、既存の技術の組み合わせで、それをどのようにマネジメントしていくかが重要です。新しい技術開発はほとんどありません。日本国内においては、JPDRという小さな原子力発電所の廃止措置を実施した経験しかありませんが、海外では、多くの原子力発電所の廃止措置が実施されています。原子炉の廃止措置(廃炉)では、新しい産業を生むことはできません。廃炉ビジネスは幻想です。
先日、アメリカのアリゾナ州フェニックスで毎年開催されている、Waste Management (放射性廃棄物マネジメント)という国際会議に出席してきました。非常に大規模な会議で、アメリカ中、世界中から数多くの企業が参加して、大きなビジネスに発展していました。このような話とごっちゃになっているように思います。どこが違うのかを考えていきましょう。
原子炉の廃止措置は、たかだか年20億円程度という話をしました。一方で、福島第一の廃止措置は、昨年、国が8兆円と見積もり、足りない6兆円分について、30年間、毎年2000億円ずつ積み立てていくことを決めました。つまり、福島第一の廃止措置は年2000億円と見積もられており、通常に停止した原子力発電所の100倍大きな経済規模です。
また、アメリカには、ハンフォードなどの原子爆弾開発に伴い汚染された研究開発施設があります。ここの廃止措置関連予算は、年間6000億円と言われています。イギリスのセラフィールドなどの核燃料関連施設の廃止措置を進めている、NDA(原子力廃止措置機関)というイギリスの機関の年間予算も4000億円程度です。
福島第一やハンフォード、セラフィールドのように、核燃料で汚染されてしまった設備の廃止措置には、毎年1000億円オーダーのお金がかかっていることがわかります。そうです。廃止措置がビジネスになっているのは、福島第一のように大規模に汚染された設備の廃止措置だからです。これらの廃止措置も、基本的には、既存技術の組み合わせでマネジメントしていきますが、どうしても、新しい技術開発や、廃止措置のための新しい設備の整備などが必要になってきます。この新しい技術開発や大きなプロジェクトに、世界中の企業が群がっているのです。
繰り返しになりますが、通常炉の廃止措置は、ほぼ既存技術の組み合わせです。しかし、事故炉などの汚染が厳しい原子力施設の廃止措置には、新規技術開発が必須です。年あたりの予算規模も10億円台から1000億円台と100倍違うのです。また、事故炉などの廃止措置で開発された技術は、通常炉の廃止措置に適用可能ですが、逆はほとんどありません。つまり、いま、日本において、廃炉ビジネスに参入する場合には、福島第一の廃止措置に参入することが必要なのです。柏崎刈羽原子力発電所などの通常炉の廃止措置にはビジネスはありません。
柏崎市の市長さんには、柏崎の企業が、福島第一の廃止措置に参画できるような仕組みを考えていただくことが良いと思います。柏崎刈羽原子力発電所とは全く関係ありません。ただし、折角の立地地域というメリットを捨てる政策になってしまいます。日本国内の他の地域と一緒になってしまうために、競争に勝つのはむつかしいかもしれません。
| 産業の活性化につなげることは難しい |
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